判旨
調停により土地明渡義務を負担した者は、当該土地上の建物の所有権を喪失したとしても、調停に基づく義務の履行として依然として明渡義務を負う。また、不法占有に基づく損害賠償が否定される場合であっても、調停上の債務不履行に基づく損害賠償義務は免れない。
問題の所在(論点)
調停によって土地明渡義務を負担した者が、その後に建物の所有権を失った場合であっても、調停に基づく義務としての土地明渡義務および債務不履行に基づく損害賠償義務を負うか。
規範
調停において成立した土地明渡合意は、債権的な義務を創設するものであり、その履行請求の可否は、目的物に対する現時の事実上の占有権や建物所有権の有無に必ずしも左右されない。また、不法行為責任(民法709条)が成立しない場合であっても、調停上の義務に違反したときは、債務不履行に基づく損害賠償責任が発生し得る。
重要事実
上告人Aは、被上告人との間で、本件土地220坪を明け渡す旨の調停を成立させた。しかし、その後Aは土地上の建物の所有権を失ったと主張し、現に占有していないことを理由に明渡義務の消滅を争った。原審は、調停に基づく義務の履行として明渡請求を認め、あわせて債務不履行に基づく損害賠償責任を肯定したため、Aが上告した。
あてはめ
Aは現在建物の所有者でないとしても、本件土地全部につき占有権を有しないとは認められない。さらに、本件請求は物権的請求権としての明渡請求ではなく、成立した調停に基づく義務の履行を求めるものである。したがって、Aが現に目的物を占有しているか否かは、調停条項に基づく義務の存否に影響しない。損害賠償についても、建物非所有により不法占有を前提とする損害賠償は因果関係を欠くが、調停上の義務に違反したことによる債務不履行責任は別個に成立する。
結論
上告人Aは、調停に基づく義務として土地を明け渡す義務があり、その不履行による損害を賠償する責任を負う。
事件番号: 昭和37(オ)1165 / 裁判年月日: 昭和39年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の合意解除が認められない状況下で、転借人が賃貸人の承諾を得て賃借人(転貸人)に賃料を支払った場合、その支払は民法613条の趣旨に照らし、賃貸人に対する関係でも有効な支払として免責の効果が生じる。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)と賃借人(訴外D)との間の賃貸借契約が存続している状況にお…
実務上の射程
土地明渡請求の訴訟において、物権的請求権(占有の喪失による抗弁)と債権的請求権(調停や契約に基づく義務)を峻別する際に活用できる。債権的義務に基づく請求であれば、建物の所有権喪失という事実のみでは義務を免れないことを示す射程を持つ。
事件番号: 昭和35(オ)893 / 裁判年月日: 昭和38年2月21日 / 結論: 棄却
土地賃貸人と賃借人との間において土地賃貸借契約を合意解除しても、土地賃貸人は、特別の事情がないかぎり、その効果を地上建物の賃借人に対抗できない。
事件番号: 昭和37(オ)1065 / 裁判年月日: 昭和39年10月23日 / 結論: 棄却
地主の承諾なしに建築物を所有することにより敷地を不法に占有する者は、右敷地につき第三者と地主との間に賃貸借契約が存すると否とを問わず、地主に対し賃料相当の損害金を支払う義務がある。
事件番号: 昭和33(オ)717 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地をその上に建物を所有して占有する者は、民法188条による権利適法推定を受けないため、土地の占有権原として使用貸借の成立を主張する者がその挙証責任を負う。 第1 事案の概要:上告人は、本件土地上に建物を所有して占有していた。被上告人(土地所有者)からの土地明け渡し請求に対し、上告人は当該土地の使…
事件番号: 昭和35(オ)460 / 裁判年月日: 昭和35年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法188条による権利の推定は、占有者とその占有の伝来した前主との間には及ばない。したがって、他人の所有地を占有する者が正権原(賃借権等)を主張する場合、その立証責任は占有者側にある。 第1 事案の概要:被上告人(土地所有者)が上告人(占有者)に対し、所有権に基づき建物の収去と土地の明渡しを請求し…