民法第一〇九条の表見代理の成立につき、第三者が重大な過失なくして代理権ありと信じたことを要する。
民法第一〇九条の表見代理の成立と第三者の重過失の要否
民法109条
判旨
表見代理の成否に関し、相手方が本人に対して代理権の有無を確認しなかったことが、判示の事実関係の下では重大な過失に該当すると判断した。
問題の所在(論点)
表見代理の成否を判断するにあたり、相手方が本人に対して代理権の有無を直接確認しなかったことが、民法上の「正当な理由」を否定する「重大な過失」に該当するか。
規範
表見代理(民法110条等)の適用において、相手方に「正当な理由」があるというためには、代理権があると信じたことにつき無過失であることを要する。特に、取引の経緯や当事者の属性に照らし、本人に対して代理権の有無を確認すべき状況にあるにもかかわらずこれを怠った場合には、重大な過失があるものとして正当な理由が否定される。
重要事実
上告会社(被告)の専務取締役であった訴外Dの日記(乙3号証の1、2)や証人E・Dの証言等が提出されたが、原審はこれらを精査した上で一定の事実を認定した。上告人は、相手方が本人に対して代理権の有無を確認しなかった点について過失がないと主張したが、原審は当該事案の具体的な事実関係に照らし、確認を怠ったことを重大な過失と評価した。なお、具体的な取引内容や関係者の詳細な属性については、本判決文からは不明である。
事件番号: 昭和32(オ)804 / 裁判年月日: 昭和36年12月1日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】表見代理の成立要件である「正当な理由」の判断において、代理人が本人の利益ではなく自己の債務決済のために権限を行使していると疑われる事情がある場合、相手方がその権限を信じたことに過失がないとはいえない。 第1 事案の概要:上告人(本人)の代理人と称するDは、被上告人(相手方)に対し、上告人のための金…
あてはめ
原審が適法に確定した事実関係によれば、相手方は本人に対して代理権の有無を確認する機会があった、あるいは確認すべき状況にあったといえる。それにもかかわらず、相手方が代理権の有無を確かめなかったという事実は、取引上の注意義務に著しく反する。したがって、かかる不作為は「重大な過失のそしりを免れない」と評価され、正当な理由を欠くものと解される。原審の証拠取捨選択および事実認定に経験則違反等の違法は認められない。
結論
相手方が代理権の有無を確認しなかったことに重大な過失があるとした原審の判断は正当であり、表見代理の成立を否定した結論は維持される。
実務上の射程
本判決は、表見代理における「正当な理由」の判断において、本人への確認義務が重要な要素となることを示している。特に権限外の行為等が疑われる状況下で、容易に確認が可能であったにもかかわらずこれを怠った場合、重過失と認定されやすい実務上の傾向を裏付ける。答案上は、110条等の正当な理由を検討する際のあてはめ指標として活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)738 / 裁判年月日: 昭和34年5月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】印鑑証明書の交付申請を依頼するために実印を交付する行為は、当然には法律行為の代理権を授与したものとはいえず、表見代理の基本代理権には当たらない。 第1 事案の概要:訴外Dは、10万円の手形保証を1週間程度引き受けることについて控訴人(被上告人)から承諾を得た際、実印の押捺を受けた。その後、Dは手形…
事件番号: 昭和33(オ)87 / 裁判年月日: 昭和33年10月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理権のない者が勝手に本人の実印を持ち出して委任状を偽造し、消費貸借契約や抵当権設定登記を行っても、本人がそれを適法な代理権に基づくものと認めた事情や、特段の表見代理の成立が認められない限り、その効果は本人に帰属しない。 第1 事案の概要:上告人は、訴外Dとの間でりんごの取引を行っていたが、Dが生…
事件番号: 昭和33(オ)172 / 裁判年月日: 昭和34年4月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の「正当な理由」の存否について、判示のような売買契約締結の経緯がある場合、相手方が登記済権利証等の提示・交付を受けず、また本人へ照会しなかったとしても、直ちに過失があるとはいえず、正当な理由が認められる場合がある。 第1 事案の概要:上告人(本人)に対し、訴外Dが上告人を代理して、被上…
事件番号: 昭和34(オ)912 / 裁判年月日: 昭和35年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】準消費貸借契約および抵当権設定契約が虚偽表示等により真実に合致しない場合、その事実認定は下級審の専権に属し、証拠の取捨選択に不合理がなければ上告理由とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、準消費貸借契約および抵当権設定契約が締結されたと主張したが、第一審および原審は、提出された証拠(乙第7号各…