偽造の委任状に基づき作成された公正証書が債務名義の場合には請求異議の訴によりその執行力の排除を争うことができる。
公正証書が偽造の委任状に基づき作成された場合と請求異議の訴
判旨
偽造された委任状に基づき作成された公正証書は無効であり、債務者はこれに基づき請求異議の訴えを提起することができる。
問題の所在(論点)
偽造された委任状によって作成された公正証書について、請求異議の訴え(またはその性質を有する訴え)を提起してその無効を主張し、執行の排除を求めることができるか。
規範
公正証書の作成にあたり、代理権を証する委任状が偽造されていた場合、当該公正証書は有効な執行力ある正本としての効力を有さず無効である。したがって、債務者は民事執行法上の請求異議の訴え(またはそれに準ずる訴訟)により、その執行力の排除を求めることができる。
重要事実
上告人は、公正証書に表示された債権が存在すると主張して執行を試みた。これに対し、相手方は当該公正証書が偽造された委任状によって作成された無効なものであると主張し、請求異議の訴えを提起した。原審は、公正証書の基礎となる消費貸借契約が不成立であるとの主張を認め、公正証書が無効であると判断した。上告人は、公正証書の無効を理由に請求異議を提起できるとする判断には違法があると主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、公正証書が偽造の委任状により作成されたものである場合には、その公正証書は無効であると判示する。本件においても、原審が認定した「公正証書が偽造の委任状に基づき作成された」という事実に基づけば、当該証書に執行力を認めることはできない。また、上告人が予備的に申し立てた債権の存否に関する判断についても、主たる請求(公正証書の無効に基づく請求)が認容されている以上、判断を要しないと解される。
結論
偽造の委任状により作成された公正証書は無効であり、請求異議の訴えを提起しうる。したがって、原審の判断に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
執行証書(公正証書)に特有の論点である。判決と異なり、執行証書には既判力がないため、請求異議の訴えにおいて、債権の不成立や証書の無効といった「作成前」の事由も制限なく主張できることを示す典型例として活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)230 / 裁判年月日: 昭和32年6月6日 / 結論: 棄却
一 公正証書が無権代理人の嘱託に基き作成された無効のものであるときは、債務者は、請求異議の訴を提起することができる。 二 無権代理人の嘱託に基き公正証書が作成された場合については、民法第一一〇条の準用はない。