判旨
無権代理により作成された公正証書は無効であり、債務名義が無効である場合には、債権の存否にかかわらず、債務名義上の債務者は請求異議の訴えを提起することができる。
問題の所在(論点)
無権代理により作成された公正証書のように債務名義自体が無効である場合に、実体法上の債権の存否にかかわらず請求異議の訴えを提起することができるか。
規範
債務名義が無効である場合には、実体法上の債権の存否を問わず、債務名義上の債務者は民事執行法35条(旧民訴法542条)に基づく請求異議の訴えを提起することができる。また、無権代理人による嘱託に基づいて作成された公正証書は、債務名義として無効である。
重要事実
上告人の代理人と称する者が公正証書の作成を嘱託したが、その実体は無権代理であった。この無権代理によって作成された公正証書に基づき強制執行がなされるおそれがあったため、債務名義上の債務者である被控訴人が、債権の存否を争うとともに、債務名義の無効を理由として請求異議の訴えを提起した。
あてはめ
本件における公正証書は無権代理により作成されたものであるから、公証人に対する適法な嘱託を欠き、債務名義として当然に無効である。このような無効な債務名義が存在し、強制執行の危険がある以上、債務者は、実体上の不当(債権の不在)を証明するまでもなく、当該債務名義の無効自体を理由としてその執行力の排除を求めることができると解される。
結論
無権代理により作成された公正証書は無効であり、債務者は債権の存否にかかわらず請求異議の訴えを提起できる。
実務上の射程
債務名義が成立過程の瑕疵等により無効である場合に、請求異議の訴えの適否が問われる場面で活用する。請求異議の訴えは本来実体上の不当を主張するものであるが、判例は債務名義の無効を理由とする請求異議(いわゆる無効異議)を肯定している点に実務上の重要性がある。
事件番号: 昭和38(オ)18 / 裁判年月日: 昭和38年7月30日 / 結論: 棄却
公正証書が無権代理人の嘱託に基づいて作成されたため無効である場合にも請求異議の訴を提起することができる(昭和三二年六月六日第一小法廷判決、民集一一巻七号一一七七頁参照)