一 公正証書が無権代理人の嘱託に基き作成された無効のものであるときは、債務者は、請求異議の訴を提起することができる。 二 無権代理人の嘱託に基き公正証書が作成された場合については、民法第一一〇条の準用はない。
一 公正証書が無権代理人の嘱託に基き作成された場合と請求異議の訴。 二 無権代理人の嘱託に基き公正証書が作成された場合と民法第一一〇条の準用の有無。
民訴法545条,民訴法559条3,民訴法560条,民訴法522条,民法110条
判旨
無権代理人により作成された公正証書は無効であり、このような執行証書の作成過程において民法110条の表見代理の規定を準用または適用する余地はない。
問題の所在(論点)
無権代理人によって嘱託・作成された公正証書(執行証書)の効力、および、執行証書の作成手続において民法110条の表見代理規定を適用または準用できるか。
規範
執行証書の作成嘱託につき代理権を授与していないにもかかわらず、無権代理人によって作成された公正証書は無効である。また、公証人に対する嘱託行為は公法上の行為であるから、これに民法110条の権限外の表見代理の規定を直接適用または準用することはできない。
重要事実
被上告人を代理して公正証書を作成させる権限のないDが、公証人に嘱託して本件公正証書を作成させた。上告人は、Dに基本代理権が存在したこと等を理由に、民法110条の表見代理が成立し、当該公正証書は有効な債務名義であると主張して争った。
あてはめ
本件公正証書のうち被上告人に関する部分は、代理権のないDによって作成されたものであり、無効と認めざるを得ない。また、公正証書の作成嘱託という公法上の行為については、私法上の取引の安全を目的とする民法110条の規定を準用する余地はなく、上告人の表見代理の抗弁は採用できない。
結論
本件公正証書は無効であり、これに基づく強制執行を阻止するための請求異議の訴えは認められる。民法110条を準用する余地はない。
実務上の射程
執行証書の有効性に関する重要判例。公法上の行為に対する表見代理の適用否定という一般的法理を執行手続に投影したものである。答案上は、執行証書の成立に瑕疵がある場合に、民法上の表見代理による救済が否定される根拠として活用する。
事件番号: 昭和38(オ)18 / 裁判年月日: 昭和38年7月30日 / 結論: 棄却
公正証書が無権代理人の嘱託に基づいて作成されたため無効である場合にも請求異議の訴を提起することができる(昭和三二年六月六日第一小法廷判決、民集一一巻七号一一七七頁参照)