強制執行受諾条項づきの公正証書作成嘱託については、民法第一〇九条の適用はない。
強制執行受諾条項づきの公正証書作成嘱託と民法第一〇九条の適用の有無
民法109条,民訴法599条3号
判旨
強制執行受諾条項付公正証書の作成嘱託という公法上の行為については、民法109条(権限外の行為に係る表見代理)の規定は適用されない。
問題の所在(論点)
公証人に対して強制執行受諾条項付きの公正証書の作成を嘱託する行為(公法上の行為)について、民法109条の表見代理の規定が適用されるか。
規範
民法109条(および同110条等の表見代理規定)は、私法上の取引行為を対象とするものであり、公証人に対する公正証書作成嘱託のような公法上の行為については、特段の事情のない限り適用されない。
重要事実
本件では、強制執行受諾条項が付された公正証書の作成を嘱託する際、代理権の範囲を超えた行為(または無権代理行為)があったことが争点となった。上告人は、相手方に代理権があると信ずべき正当な理由があったとして、民法109条の類推適用ないし適用を主張して、公正証書の効力を争った。
あてはめ
判決文によれば、強制執行受諾条項付き公正証書の作成嘱託は、執行証書という債務名義を作成させるための公法上の行為である。民法109条は取引の安全を図るための私法上の規定であり、厳格な手続的正義が求められる公法上の行為にそのまま適用することは、法的安定性を害するおそれがある。したがって、原審が同条の適用を否定した判断は正当であると解される。
結論
強制執行受諾条項付き公正証書の作成嘱託について、民法109条の適用はない。
実務上の射程
本判決は、公法上の行為に対する表見代理規定の適用を否定したリーディングケースである。答案上では、行政上の届出や訴訟行為などの公法上の行為について表見代理が主張された際、本判例を引用して否定的な論証を展開する根拠となる。ただし、登記申請行為など私法上の取引と密接に関連する場合には、民法110条の『正当な理由』の判断において考慮される余地がある点に留意が必要である。
事件番号: 昭和30(オ)230 / 裁判年月日: 昭和32年6月6日 / 結論: 棄却
一 公正証書が無権代理人の嘱託に基き作成された無効のものであるときは、債務者は、請求異議の訴を提起することができる。 二 無権代理人の嘱託に基き公正証書が作成された場合については、民法第一一〇条の準用はない。