公正証書が無権代理人の嘱託に基づいて作成されたため無効である場合にも請求異議の訴を提起することができる(昭和三二年六月六日第一小法廷判決、民集一一巻七号一一七七頁参照)
無権代理人の嘱託に基づく公正証書と請求異議の訴。
民訴法545条
判旨
無権代理人の嘱託に基づき作成された無効な公正証書について、債務者は執行文付与に対する異議の訴えだけでなく、請求異議の訴えを提起することも可能である。
問題の所在(論点)
無権代理人の嘱託により作成された無効な公正証書について、請求異議の訴え(民事執行法35条参照)を提起してその執行力を否定することが認められるか。執行文付与に対する異議の訴え(同法34条参照)のみが許容されるのか、それとも請求異議の訴えも選択できるのかが問題となる。
規範
公正証書が作成の形式的要件を欠き、または無権代理人の嘱託に基づき作成されるなどして無効である場合、当該公正証書の執行力の排除を求める債務者は、執行文付与に対する異議の訴えのみならず、請求異議の訴えを提起して実体上の判断を求めることができる。
重要事実
上告人は、債務名義である公正証書が無権代理人の嘱託に基づき作成されたものであり、無効であることを主張した。上告人は、このような無効事由がある場合には執行文付与に対する異議の訴え(旧民訴法522条)によるべきであり、請求異議の訴え(旧民訴法545条、現行民執法35条)によるべきではないとの前提に立ち、本件訴えの適法性または原審の実体判断の是非を争った。
あてはめ
最高裁は、公正証書が無権代理人の嘱託により作成され無効である場合であっても、請求異議の訴えを提起できるとする。本件において、原審が上告人の主張に基づき請求異議の訴えとして実体上の判断を示したことは、先行判例の趣旨に沿うものであり、手続上の違法は認められないと判断した。判決文からは詳細な当てはめの過程は不明であるが、結論として請求異議の訴えの適法性を認めた。なお、旧民訴法下の判示であるが、現行法においても同様の法理が妥当する。
結論
無権代理人による無効な公正証書については、請求異議の訴えを提起することができる。したがって、原審が実体判断を示したことは正当である。
実務上の射程
公正証書は確定判決と異なり既判力がないため、請求異議の訴えにおいて『原因の発生時期』の制限を受けない(民執法35条2項後段)。本判決は、公正証書が無効であるという形式的瑕疵についても、実体的な請求権の存否を争う請求異議の訴えで主張可能であることを明確にしており、訴訟選択の幅を広げる実務上重要な射程を持つ。
事件番号: 昭和30(オ)230 / 裁判年月日: 昭和32年6月6日 / 結論: 棄却
一 公正証書が無権代理人の嘱託に基き作成された無効のものであるときは、債務者は、請求異議の訴を提起することができる。 二 無権代理人の嘱託に基き公正証書が作成された場合については、民法第一一〇条の準用はない。