判旨
公正証書に基づく強制執行を阻止するための請求異議の訴えにおいて、公正証書の実体関係をなす法律行為を解釈するにあたっては、必ずしも証書の記載のみに拘束されるものではない。
問題の所在(論点)
公正証書を債務名義とする請求異議の訴えにおいて、実体法上の法律行為の解釈を公正証書の記載内容と異なる事実に基づいて行うことができるか。
規範
請求異議の訴え(民事執行法35条)において、債務名義である公正証書が表象する実体法上の権利義務関係を確定するための法律行為の解釈は、公正証書の記載のみによって行われる必要はなく、諸般の事情を考慮して真実の合意内容を探究すべきである。
重要事実
上告人は、実体法上の事由に基づき公正証書の執行力の排除を求める請求異議の訴えを提起した。当該公正証書には売買代金の単価が「一石当たり」の単価として記載されていたが、原審の事実認定によれば、これは「十石当たり」の単価の誤記であった。上告人は、公正証書の記載内容が真実の単価としての効力を有するべきであると主張して上告した。
あてはめ
本件において、公正証書に記載された「一石当たりの単価」は、当事者の真意に照らせば「十石当たりの単価」を誤記したものであると認められる。請求異議の訴えは実体法上の事由により執行力の排除を求めるものであるから、その基礎となる法律行為の解釈は、書面の形式的な記載に限定されるものではない。したがって、誤記であることが証拠により明白である以上、記載内容にかかわらず、真実の合意内容(十石当たりの単価)を基礎として実体関係を解釈することが許容される。
結論
公正証書の記載が誤記である場合、実体関係の解釈は証書の記載のみによる必要はなく、真実の合意内容に従って判断される。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
公正証書の「執行力」は証書の記載に基づいて発生するが、請求異議の訴えという実体法上の争いにおいては、証書に強い証明力は認められるものの、記載内容と異なる真実の合意を主張・立証することが可能であることを示している。答案上は、債務名義の解釈において形式的記載と実体関係が乖離した場合の判断指針として活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)1124 / 裁判年月日: 昭和37年4月12日 / 結論: 棄却
偽造の委任状に基づき作成された公正証書が債務名義の場合には請求異議の訴によりその執行力の排除を争うことができる。