公正証書に当該請求権の発生原因として記載されている事実が多少真実の事実と一致しないところがあつても、その記載により当該請求権の同一性が認識できる以上は当該公正証書は真実の請求権と一致する部分にかぎり当該請求についての債務名義としての効力を有するものと解すべきである。
公正証書の記載の一部が事実に合致しない場合とその効力
民訴法559条3
判旨
公正証書に記載された請求権の発生原因が真実と多少異なっていても、当該請求権の同一性が認識できる限り、真実の請求権と一致する範囲で債務名義としての効力を有する。
問題の所在(論点)
公正証書に記載された請求権の発生原因(貸付日等)が真実の事実と相違する場合に、当該公正証書が債務名義としての効力を有するか。特に、記載内容と実体関係が一部異なる場合の執行力の及ぶ範囲が問題となる。
規範
公正証書が債務名義(民事執行法22条5号)としての効力を有するためには、当該請求権が具体的に表示されていることを要し、またそれで足りる。したがって、請求権の発生原因として記載されている事実が多少真実と異なっていても、その記載により請求権の同一性が認識できる以上、真実の請求権と一致する部分に限り、当該公正証書は債務名義としての効力を有する。
重要事実
被上告人と上告人らとの間には、昭和36年6月10日から継続的な金銭貸借関係があった。昭和38年7月16日、それまでの貸借をまとめる形で金70万円の準消費貸借契約が成立し、これを内容とする強制執行認諾文言付き公正証書が作成された。しかし、当該公正証書には貸付日が「昭和36年6月10日」と記載されており、実際の準消費貸借契約成立日である「昭和38年7月16日」という発生原因の記載とは一部相違していた。また、利息についても当事者間の約定の範囲内での記載がなされていた。
あてはめ
本件公正証書には、貸付日の記載が事実と相違する点があるものの、昭和38年7月16日に成立した金70万円の準消費貸借上の貸金債権を対象としたものであることは認識可能であり、請求権の同一性は失われない。もっとも、執行力が認められるのは真実の債権と一致する範囲に限られる。したがって、公正証書上の貸付日(昭和36年6月10日)から実際の契約成立日前日(昭和38年7月15日)までの期間に係る利息部分については、実体的な債権との一致を欠くため執行力を有しない。しかし、その余の元本および成立日以降の利息については、実体債権と一致するため債務名義としての効力が認められる。
結論
本件公正証書は、記載された発生原因が真実と一部異なる場合であっても、請求権の同一性が認められる限り、実体債権と一致する範囲(元本および契約成立後の利息)において債務名義として有効である。
実務上の射程
公正証書による強制執行において、債務者が実体関係との不一致を理由に請求異議の訴え等を提起した場合の判断基準となる。原因事実の多少の誤記は執行力を直ちに否定するものではなく、「同一性の認識可能性」と「実体債権との合致」の限度で有効性を維持する実務的な処理を示している。
事件番号: 昭和35(オ)784 / 裁判年月日: 昭和36年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書に基づく強制執行を阻止するための請求異議の訴えにおいて、公正証書の実体関係をなす法律行為を解釈するにあたっては、必ずしも証書の記載のみに拘束されるものではない。 第1 事案の概要:上告人は、実体法上の事由に基づき公正証書の執行力の排除を求める請求異議の訴えを提起した。当該公正証書には売買代…