自動車の割賦販売契約に関する公正証書において、売主は、買主の債務不履行があれば売買契約を解除して自動車の返還を受けることができ、右自動車の評価額が未払代金および費用に充たないときはなお不足額を請求することができる旨の約定がある場合に、売主が買主から自動車の返還を受けその評価額を代金債権の一部に充当した事実があつても、売主が契約を解除することなく残額につき代金の請求をするときは、右公正証書は、これに一定の金額として表示された代金債権がなお一部存在するものとして、その部分につき執行力を有するものと認めることができる。
自動車の割賦販売契約に関する公正証書と売主が自動車の返還を受けその評価額を代金額の一部に充当した場合における不足額についての執行力
民訴法559条3号
判旨
金銭債務を目的とする執行証書において、作成後に債務の一部弁済がなされた場合であっても、当該執行証書は依然として残存債務の範囲で債務名義としての効力を有する。
問題の所在(論点)
金銭債権を内容とする公正証書の作成後、その債務の一部が弁済によって消滅した場合、当該公正証書は残存債務についても債務名義としての効力を失うのか、それとも残存範囲で効力を維持するのか。
規範
公正証書(執行証書)に一定の金額の金銭債権が表示されている場合、その作成後に債権の一部につき弁済がなされたとしても、当該公正証書は、依然として消滅せずに残存する元本および遅延損害金の範囲において、債務名義としての効力を有する。
重要事実
上告人は、被上告人に対し、自動車売買代金108万5091円および遅延損害金を支払う旨の公正証書を作成した。その後、上告人は当該売買代金債務について一部弁済を行ったが、元本24万7218円およびこれに対する遅延損害金が未払いのまま残存していた。上告人は、一部弁済等を理由に当該公正証書に基づく強制執行の不許を求めて請求異議の訴えを提起した。
あてはめ
本件公正証書には、当初108万5091円の売買代金債権が表示されていたが、事実認定によれば、一部弁済後もなお24万7218円の元本および所定の遅延損害金債権が残存している。一部弁済は債務を消滅させる事由ではあるが、債務が完全に消滅しない限り、公正証書が表章する債権の同一性は失われない。したがって、弁済により消滅した部分を超える「残存元本および遅延損害金」については、依然として債務名義としての執行力が認められる。他方、弁済により既に消滅した部分については執行を許さないとするのが相当である。
結論
一部弁済後であっても、残存する元本および遅延損害金の範囲において公正証書に基づく強制執行は許される。残存債務を超える部分についてのみ執行を許さないとした原審の判断は正当である。
実務上の射程
請求異議の訴え(民事執行法35条)において、債務の一部消滅を主張する場合の標準的な判断枠組みを示す。答案上は、債務の一部消滅が認められる場合でも、執行力自体が全部失効するのではなく、消滅した範囲で「執行を許さない」との判決を求めるべきであることを説明する際に活用できる。
事件番号: 昭和52(オ)633 / 裁判年月日: 昭和55年12月9日 / 結論: 棄却
一 執行文付与に対する異議の訴における事実審の口頭弁論終結時までに生じていた請求に関する異議事由を後訴である請求に関する異議の訴において主張することは許される。 二 民訴法三八九条一項により事件を第一審に差戻すか否かは、原則として、控訴裁判所の裁量に委ねられる。