判旨
既存の債務名義である公正証書と同一の債務に基づき、金員の授受を伴わず重ねて作成された公正証書は、債務名義としての効力を有しない。これは、実体上の債権債務関係に変動がないにもかかわらず、形式的な公正証書を重複して作成することを認めない趣旨である。
問題の所在(論点)
既に同一の債務について公正証書(債務名義)が存在する場合に、新たな金員の授受なく重ねて作成された公正証書の債務名義としての効力が認められるか(民事執行法上の債務名義の適格性)。
規範
同一の消費貸借債務に基づき、既に公正証書(債務名義)が存在する場合において、何ら新たな金員の授受を伴わずに、重ねて同一債務に関する公正証書を作成したとしても、後者の公正証書は債務名義としての効力を有しない。
重要事実
上告人と訴外Dとの間に10万8000円の消費貸借が成立したとして公正証書が作成され、既に債務名義として存在していた。しかし、その後、上告人とDは同じ消費貸借債務に基づき、実際には新たな金員の授受が全くないにもかかわらず、重ねて本件消費貸借契約の公正証書を作成した。上告人は、この後者の公正証書の債務名義としての有効性を主張した。
あてはめ
本件では、10万8000円の公正証書が既に債務名義として存在している。本件公正証書は、これと同じ消費貸借債務に基づき、何ら金員の授受を伴わずに作成されたものである。このように、実体的な権利関係の発生や変動が伴わないまま、既存の債務名義と重複する形で作成された書面は、独立した債務名義としての実質を欠く。したがって、本件公正証書に債務名義としての効力を認めることはできない。
結論
本件公正証書は債務名義としての効力を有さず、上告を棄却する。
実務上の射程
同一債務について重複して債務名義を作成することの是非が問われた事案である。答案上では、公正証書の執行認諾文言が有効であるためには、前提となる法律関係の実態が必要であることを示す際に活用できる。ただし、本判決は事実認定のプロセスに関する判断が主であり、実体法上の消費貸借の要物性(旧法下)や、既判力のない公正証書の特質を背景としている点に留意が必要である。
事件番号: 昭和31(オ)434 / 裁判年月日: 昭和32年8月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】無権代理により作成された公正証書は無効であり、債務名義が無効である場合には、債権の存否にかかわらず、債務名義上の債務者は請求異議の訴えを提起することができる。 第1 事案の概要:上告人の代理人と称する者が公正証書の作成を嘱託したが、その実体は無権代理であった。この無権代理によって作成された公正証書…