債務者の代理人から更に公正証書作成嘱託の依頼を受けた者が公証人に対し右の代理人本人と称して嘱託をしたうえ右証書にその者の署名をした場合は、右証書は債務名義としての効力を有しない。(反対意見がある。)
債務者の代理人から更に公正証書作成嘱託の依頼を受けた者が代理人本人として作成の嘱託をした公正証書の効力
公証人法2条,公証人法28条,公証人法31条,公証人法32条,民訴法(昭和54年法律第4号による改正前のもの)559条3号
判旨
債務者の代理人から復代理の依頼を受けた者が、公証人に対し代理人本人と称して嘱託を行い、署名した公正証書は、たとえ代理権の範囲内であっても債務名義としての効力を有しない。
問題の所在(論点)
代理権を有する者が、公証人に対して本人(または上位の代理人)になりすまして嘱託し、署名を行った場合、当該公正証書は有効な債務名義となるか。
規範
公正証書の作成において、嘱託人が公証人に対し他人の氏名を冒用して嘱託を行い、証書にその他人の署名をした場合には、たとえ嘱託の権限を有していたとしても、その公正証書は適法な方式を欠き、公正の効力を有しないため、債務名義としての効力を認められない。
重要事実
債務者本人から公正証書作成嘱託の代理権を与えられた代理人が、さらに別の者に対し嘱託を依頼した。この依頼を受けた者が、公証人に対し自らを「代理人本人」であると称して嘱託を行い、公正証書にその代理人の署名を行った。本件では債務者本人から順次権限が授与されていた事実は認められるものの、公証人の前での身分称称が行われていた。
あてはめ
判例(最判昭50.10.12)は、債務者の代理人が本人と称して嘱託した場合には公正証書の効力を否定している。本件においても、代理人から依頼を受けた者が「代理人本人」と称して嘱託・署名を行っており、公証人が嘱託人の同一性を確認するという公正証書作成手続の本質を欠いている。したがって、代理権の有無にかかわらず、なりすましによる嘱託は適法な手続とはいえない。
結論
本件公正証書は公正の効力を有さず、債務名義としての効力はない。
実務上の射程
民事執行法上の債務名義の適格性に関する論点。代理権が存在していても、嘱託手続における「氏名の冒用」があれば形式的有効性が否定される点に注意が必要。執行文付与に対する異議の訴え等において、執行力の排除を主張する際の根拠となる。
事件番号: 昭和44(オ)1160 / 裁判年月日: 昭和45年3月24日 / 結論: 棄却
連帯保証債務に関する公正証書の作成につき、債権者が連帯保証人の白紙委任状に基づきその代理人を選任してなされた場合であつても、右公正証書記載の執行約款をも含めて契約条項が既に当事者間において予めとりきめられ右代理人は単に右条項を公正証書に作成するためのみの代理人であり、新たな契約条項を決定するものでないときは、右代理人の…