債権者の代理人が本人としてした作成嘱託に基づき作成された公正証書は、債務名義としての効力がない。 (反対意見がある。)
債権者の代理人が本人としてした作成嘱託に基づき作成された公正証書の効力
公証人法2条,公証人法32条,民訴法(昭和54年法律第4号による改正前のもの)559条3号,民事執行法22条
判旨
公正証書の作成にあたり、債権者の代理人が債権者本人と称して嘱託を行い、証書に本人名義で署名した場合には、たとえ代理権の範囲内であっても、その公正証書は債務名義としての効力を有しない。
問題の所在(論点)
公正証書の作成手続において、代理人が本人と称して嘱託および署名を行った場合、その証書は民事執行法上の債務名義として有効か。特に、債権者側の代理人が本人に成りすました場合であっても無効となるかが問題となる。
規範
公正証書の作成手続において、嘱託人が本人に成りすまして嘱託し、署名を行った場合、当該証書は公正の効力を欠き、債務名義としての効力を認められない。これは債務者の代理人が本人と称した場合のみならず、債権者の代理人が債権者本人と称した場合であっても同様である。
重要事実
上告会社(債権者)の専務取締役Eは、代表者Fから公正証書作成の代理権を授与されていた。しかし、公証人に対し、自らが代理人であることを秘して本人Fであると称し、嘱託手続を行った。さらに、証書上の署名欄にもFの名前を自署した。当該公正証書の内容自体は、授与された代理権の範囲内のものであったが、被上告会社(債務者)側が、作成手続の違法を理由にその債務名義としての効力を争った。
あてはめ
公証人法が定める厳格な嘱託手続は、証書の記載事項の真実性を担保し、公正証書に対する公衆の信頼を確保するためのものである。本件では、Eは正当な代理権を有していたものの、公証人に対して「代理人」としてではなく「本人」として振る舞い、本人名義で署名している。このような冒用による作成は、たとえ実体的な代理権の範囲内であっても、公証人が確認すべき嘱託人の同一性確認を潜脱するものであり、公正証書の形式的要件を著しく欠く。したがって、債務者側の場合と同様、債権者側において本人への成りすましが行われた場合も、証書全体の公正の効力は否定されるべきである。
結論
本件公正証書は、債権者の代理人が本人と称して嘱託した点に違法があり、債務名義としての効力を有しない。
実務上の射程
公正証書の有効性を争う執行抗告や執行異議の訴えにおいて、代理権の有無(無権代理)だけでなく、署名の冒用という「作成手続の瑕疵」を理由に無効を主張する際の根拠となる。代理権の存在という実体面よりも、嘱託手続の厳格な遵守という形式面を重視した判例である。
事件番号: 昭和44(オ)1160 / 裁判年月日: 昭和45年3月24日 / 結論: 棄却
連帯保証債務に関する公正証書の作成につき、債権者が連帯保証人の白紙委任状に基づきその代理人を選任してなされた場合であつても、右公正証書記載の執行約款をも含めて契約条項が既に当事者間において予めとりきめられ右代理人は単に右条項を公正証書に作成するためのみの代理人であり、新たな契約条項を決定するものでないときは、右代理人の…