債務者の代理人が本人としてした作成嘱託及び執行受諾に基づき作成された公正証書は、債務名義としての効力がない。
債務者の代理人が本人としてした作成嘱託及び執行受諾に基づき作成された公正証書の効力
公証人法2条,公証人法32条,民訴法559条3号
判旨
代理人が本人と称して公正証書の作成を嘱託し、本人の氏名を署名した場合には、公証人法所定の代理方式を欠く違法な嘱託として、当該公正証書は債務名義としての効力を有しない。
問題の所在(論点)
代理人が本人と偽って公正証書の作成を嘱託し、証書に本人の氏名を署名した場合、当該公正証書は債務名義として有効か。公証人法が定める代理手続の不遵守および署名代理の可否が問題となる。
規範
公正証書が債務名義としての効力を有するためには、公証人法所定の要件を具備する必要がある。代理人による嘱託の場合、代理権限の証明(同法32条)や公証人による本人への通知、列席者による署名捺印(同法39条)等の手続が要求される。これらの趣旨は、作成の正当性と記載事項の真実性を担保する点にある。したがって、作成を現実に嘱託する者の同一性は最も基本的な事項であり、代理人が本人として嘱託し本人の署名を行うことは、適正な手続の潜脱であり許されない。また、執行受諾の意思表示は公証人に対する訴訟行為であるため、表見代理の規定は適用・準用されず、署名代理を認める余地もない。
重要事実
債務者D商店の代表者Fから公正証書作成の指示と印鑑証明書等を受けていた代理人Gが、公証役場に出頭した。しかし、Gは公証人法所定の代理方式をとらず、自ら「F」であると称して嘱託を行い、公正証書にFの名で署名し、D商店の印を押捺した。この公正証書を債務名義とする配当について、他の債権者である被上告人が配当異議を申し立て、債務名義の有効性が争われた。
あてはめ
本件では、D商店の代表者Fは公証人のもとに出頭しておらず、代理人Gが嘱託を行っている。それにもかかわらず、Gは公証人法所定の代理人としての手続を履践せず、F本人を装って署名を行っている。これは、公正証書の重要性から要求される「嘱託人の人違いがないこと」という基本的要件に反し、同法の規定を潜脱する違法な嘱託である。執行受諾の意思表示は訴訟行為の性質を有し、私法上の表見代理や署名代理による救済も認められないため、当該嘱託に基づく公正証書は「公正の効力」を生じないといえる。
結論
本件公正証書は作成の嘱託に違法があり、債務名義として無効である。したがって、配当異議を認めた原審の判断は正当である。
実務上の射程
民事執行法上の債務名義の適格性が問われる事案において、公証人法の手続違背が致命的な瑕疵となることを示す。特に、訴訟行為の性質を理由に表見代理の適用を否定する論理は、公正証書のみならず他の訴訟手続の代理権の問題にも転用可能な射程を有している。
事件番号: 昭和43(オ)21 / 裁判年月日: 昭和43年6月7日 / 結論: 棄却
(省略)