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執行認諾約款付公正証書の作成が民法第一〇八条本文に違反しないとされた事例
民法108条,民訴法559条
判旨
債務者及び連帯保証人があらかじめ執行認諾約款付公正証書の作成に同意し、その依頼に基づき債権者が債務者らの代理人として公正証書を作成した場合は、民法108条本文の自己契約・双方代理の禁止に違反しない。
問題の所在(論点)
債権者が債務者側の代理人となって執行認諾約款付公正証書を作成する行為が、民法108条本文の禁止する自己契約または双方代理に該当し、無効となるか。
規範
民法108条本文が自己契約・双方代理を禁止する趣旨は、代理人が本人と利益相反する行為を行うことで、本人の利益が害されることを防止する点にある。したがって、あらかじめ本人が当該行為を許諾している場合には、利益侵害のおそれがないため、同条本文の禁止には抵触しない。
重要事実
債権者(被上告人)は、債務者(D)の消費貸借債務について上告人らが連帯保証した債務を目的として、執行認諾約款付の公正証書を作成した。この際、上告人らはあらかじめ公正証書の作成に同意しており、その依頼に基づいて被上告人が上告人らを代理して公正証書の作成手続を行った。上告人は、この行為が民法108条に違反し無効であると主張して争った。
あてはめ
本件において、上告人および他の連帯保証人は、公正証書の作成にあたってあらかじめ執行認諾約款が付されることを含めて同意していた。また、実際の作成手続は、これら本人の依頼に基づき、被上告人が代理人として行っている。このように、本人が代理行為の内容をあらかじめ承諾し、かつ積極的に依頼している場合には、代理人と本人の利益が相反して本人の利益が不当に害されるおそれはないといえる。したがって、民法108条本文を適用して当該行為を禁止すべき理由はないと解される。
結論
本件公正証書の作成行為は、本人の事前の同意・依頼に基づくものであるから、民法108条本文に違反せず、有効である。
実務上の射程
自己契約・双方代理の禁止の例外としての『本人の許諾』(民法108条1項但書)の成立範囲を示す射程を持つ。実務上、公正証書作成等の定型的な手続において、利害対立がある当事者の一方が他方の代理人を兼ねる場合であっても、本人の明確な同意と依頼があれば有効と判断される有力な根拠となる。
事件番号: 昭和50(オ)918 / 裁判年月日: 昭和51年10月12日 / 結論: 棄却
債務者の代理人が本人としてした作成嘱託及び執行受諾に基づき作成された公正証書は、債務名義としての効力がない。