判旨
公証人によって作成された公正証書であっても、証拠調べの結果に基づき、裁判所がその記載内容が真実に反すると判断することは、裁判所の自由心証に委ねられた事実認定の専権に属する。
問題の所在(論点)
公証人が作成した金銭消費貸借契約公正証書の記載内容について、裁判所が証拠調べに基づき、その実質的証拠力を否定して真実に反するものと認定することは、事実認定の専権の範囲内として許容されるか。
規範
民事訴訟における事実の認定は、裁判所が証拠調べの結果得られた心証に基づき、自由な判断によって行うべきものである(自由心証主義)。公文書(民訴法228条2項)である公正証書は、その成立の真正(形式的証拠力)については強い推定を受けるが、その記載内容が真実であるか否か(実質的証拠力)については、他の証拠との対照により、裁判所の合理的判断により否定することが可能である。
重要事実
上告人は、金銭消費貸借契約に関する公証書(第九〇八五号)の記載に基づき、貸金債権の存在を主張した。これに対し、原審は挙示された諸証拠を検討した結果、当該公正証書の記載内容は事実に合致しないもの(真実に反するもの)と判断した。上告人は、公正証書の記載を否定した原審の事実認定に不服があるとして上告した。
あてはめ
原判決は、提出された各証拠を総合的に評価し、公正証書の記載と客観的事実との間に齟齬があると認定している。このような証拠の取捨選択および事実の認定は、特段の論理法則・経験法則違反がない限り、原審の専権に属する事柄である。本件において、原審が公正証書の記載内容が真実に合致しないと判断した過程は、証拠に照らして是認できるものであり、上告人の主張は独自の事実見解に基づく原審の専権事項への非難にすぎない。
結論
公正証書の記載内容が真実に反するとした原審の事実認定は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
公正証書の「形式的証拠力」と「実質的証拠力」を区別する際の基礎的な判例である。答案上は、公正証書等の公文書であっても、実質的証拠力(内容の真実性)については自由心証主義の対象となり、反証によって覆しうることを論述する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和34(オ)1124 / 裁判年月日: 昭和37年4月12日 / 結論: 棄却
偽造の委任状に基づき作成された公正証書が債務名義の場合には請求異議の訴によりその執行力の排除を争うことができる。