判旨
行政通達は法規としての性質を有しないため、公証人が通達に反して発行後6か月を経過した印鑑証明書を用いて公正証書を作成しても、直ちに当該公正証書が無効となるわけではない。
問題の所在(論点)
行政通達(民事局長通達)に違反して作成された公正証書は、作成手続に法令上の瑕疵があるものとして無効となるか。
規範
行政通達は行政組織内部の技術的指針にすぎず、法規としての性質を有するものではない。したがって、公証人が通達の趣旨に沿わない取扱いをしたとしても、その一事をもって直ちに公正証書作成手続に法令上の瑕疵があるとはいえず、当該公正証書の効力を否定することはできない。
重要事実
上告人は、銀行(被上告人)との公正証書作成に備え、委任状とともに印鑑証明書をあらかじめ交付していた。訴外代理人Dは、上告人から公正証書作成嘱託および執行認諾の正当な代理権を授与されていた。公証人は、当該代理人の嘱託に基づき公正証書を作成したが、その際に提出された印鑑証明書は発行後6か月を経過したものであった。民事局長通達では、印鑑証明書は発行後6か月以内のものでなければならないとされていたため、上告人は当該公正証書の無効を主張して請求異議の訴えを提起した。
あてはめ
本件において、代理人Dは上告人から正当な代理権を有しており、本件公正証書の作成嘱託および執行認諾は真実の合意に基づいている。上告人は、印鑑証明書が発行後6か月を経過していることをもって無効を主張するが、根拠となる民事局長通達は法規としての性質を持たない。そのため、公証人が通達に反して有効期限を経過した証明書を受理したとしても、正当な代理権に基づく嘱託である以上、作成手続に特段の法令違反は認められず、公正証書および執行認諾の効力は有効と解される。
結論
行政通達に反する手続があったとしても、直ちに公正証書の効力は否定されない。したがって、本件公正証書は有効であり、上告人の請求は排斥される。
実務上の射程
行政法における「通達の法的性質」に関する基礎判例である。司法試験においては、行政指導や行政基準の法的拘束力が問題となる場面で、通達が国民や裁判所を拘束する法規ではないことを示す論拠として活用できる。民事執行法上の執行証書の有効性を争う場面でも、手続的瑕疵の程度を判断する際の参考となる。
事件番号: 昭和34(オ)1124 / 裁判年月日: 昭和37年4月12日 / 結論: 棄却
偽造の委任状に基づき作成された公正証書が債務名義の場合には請求異議の訴によりその執行力の排除を争うことができる。