公正証書作成のための代理委任状の印影と右委任状の真正を証するための印鑑証明書の印影とが相違していても、右委任状が真正に成立したものである以上、これら印影の相違を理由とする請求異議の訴は許されない。
公正証書につき請求異議の訴が許されない事例。
民訴法559条3号,民訴法560条,民訴法545条,公証人法32条
判旨
公正証書の作成にあたって委任状と印鑑証明書の印影が相違していても、委任状が真正に成立し代理権が正当に授与されているならば、それは手続上の形式的不備にすぎず、請求異議の訴えによって執行力を排除することはできない。
問題の所在(論点)
公正証書作成手続において、委任状の印影と印鑑証明書の印影が相違するという形式的不備がある場合、これを理由に請求異議の訴え(民事執行法35条参照、旧民訴法545条等)により執行力の排除が認められるか。
規範
公正証書という債務名義の執行力を排除するための請求異議の訴えにおいて、証書の作成手続に形式的な不備があるとしても、実体法上の代理権が正当に存在し、委任状が真正に成立している場合には、その手続上の瑕疵のみをもって執行力を否定することはできない。
重要事実
上告人は、公正証書作成のために公証人に提出された委任状の印影と、添付された印鑑証明書の印影が相違していることを理由に、当該公正証書の執行力排除を求めて請求異議の訴えを提起した。原審は、印影の相違を認めつつも、当該委任状は上告人自らが認印したものであって偽造ではなく真正に成立したものであり、代理人として選任されたDには正当な代理権限があったと認定した。
あてはめ
本件では、委任状の印影と印鑑証明書の印影が相違している事実は認められる。しかし、請求異議の訴えの性質に照らせば、問題となるのは実体上の権利関係や代理権の有無である。本件の委任状は真正に成立しており、代理人Dは正当な代理権限に基づいて公正証書を作成している。したがって、印影の相違は公証人に対する手続上の形式的不備に止まるものであり、実体的な代理権の有効性を左右するものではないと評価される。
結論
本件の形式的不備は執行力を排除する理由にはならず、上告人の請求は排斥される。
実務上の射程
債務名義の不成立や無効を主張して執行力を争う場面において、単なる作成手続の形式的瑕疵(公証人法上の義務違反等)があっても、実体上の合意や代理権の存在が認められる限り、執行力は維持されるという実務上の判断基準を示している。
事件番号: 昭和32(オ)1059 / 裁判年月日: 昭和34年7月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実審において主張立証されなかった事実は、上告審において新たに主張することは許されず、裁判所がそれに基づき判断しなくても違法ではない。 第1 事案の概要:上告人は、本件強制執行の債務名義である公正証書記載の債務が、通謀虚偽表示(民法94条1項)や錯誤(同法95条)に基づく無効なものであると主張し、…