売主が商人であるとしても、単にそれだけで取引の相手方のためにも商行為が成立し、商法第五一一条第一項が買主側に適用されるとはかぎらない。
売主が商人である事実のみの確定と買主側に対する商法第五一一条第一項の適用の有無
商法511条1項
判旨
数人が共同して債務を負担した場合において、債権者が商人であることのみを理由に、商法511条1項(現商法511条)を適用して連帯債務と認めることはできない。
問題の所在(論点)
数人が共同して債務を負担する場合において、債権者のみが商人であるときに商法511条1項(商行為による連帯債務)が適用されるか。
規範
数人がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は各自が連帯して負担する(商法511条1項)。この規定の適用には、当該行為が「債務者」の側にとって商行為(基本的商行為又は補助的商行為)であることを要し、債権者の側のみにとって商行為である場合には連帯債務とはならない。
重要事実
1. 訴外Dは、設立登記に至らなかった会社名義で被上告人と取引を行った。 2. 上告人Aは、Dが「会社代表者社長A」と記載した名刺を使用することを承諾していた。 3. 原審は、被上告人がりんごの売買を業とする商人であり、本件取引が商行為であるから、共同して取引を行った上告人AとDは連帯して代金債務を負うと判断した。
あてはめ
1. 商法511条1項が連帯債務を規定するのは、商取引の円滑化と債権回収の確実性を図るためであるが、その適用対象はあくまで「債務者のため」に商行為となる場合に限られる。 2. 本件において、仮に債権者である被上告人が商人であったとしても、それだけで当然に債務者側にとっての本件取引が商行為になるとはいえない。 3. 債務者である上告人及びDがどのような資格で取引を行ったのか、またはその行為が彼らにとって商行為に該当するのかを検討することなく、債権者が商人であることを理由に連帯債務を肯定した原審の判断は、商法511条の解釈を誤っている。
結論
商法511条1項は適用されず、債権者が商人であることのみを理由に連帯債務と認めることはできない。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
商法511条(商行為による連帯債務)の適用範囲を画する重要判例である。答案上では、一方的商行為(商法3条)の場合であっても、連帯債務に関しては「債務者側」にとって商行為性を有することが要件であることを明示するために用いる。民法上の分割債務の原則(民法427条)に対する例外として、どの当事者に商行為性が必要かを論述する際の根拠となる。
事件番号: 昭和33(オ)412 / 裁判年月日: 昭和33年10月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】夫婦が共同で営業を経営している場合、明示的な出資の約束がなくても、当該営業が商行為に該当し、その取引によって債務を負担したときは、商法511条1項に基づき連帯してその責任を負う。 第1 事案の概要:上告人ら夫婦は、共同して営業を行っていた。この営業は、反復継続する意思の下に継続されていたものである…