共同相続人の一人が単独相続による所有権全部取得の登記をなした場合、他の共同相続人は、共有名義に変更を求める登記更正手続の請求はできるが、右登記全部の抹消を求めることはできない。
共同相続人の一人がした単独相続登記の抹消請求の許否
不動産登記法27条,不動産登記法第4章第5節
判旨
遺産分割が無効であっても、共同相続人の一人が有する法定相続分の範囲内では登記は実体関係と符合するため、全部抹消を求めることはできない。また、他人の権利の売買も当然に無効とはならず、共有持分を超える売買を理由に直ちに登記全部の抹消を命じることはできない。
問題の所在(論点)
1. 遺産分割が無効な場合、共同相続人の一人が単独名義で行った相続登記に対し、他の共同相続人は全部抹消を請求できるか。 2. 共有者の一人が他の共有者の同意なく共有不動産を売却した場合、その売買及びそれに基づく登記は当然に無効となるか。
規範
1. 相続登記の全部抹消請求について:登記が実体上の権利関係と一部でも符合する場合、その限度で登記は有効であり、実体関係と符合しない部分を超えて全部の抹消を求めることはできない。 2. 他人権利売買と登記の効力:売買契約は売主が目的物の所有権を有することを成立要件としない(民法560条参照)。共有者の一人が他の共有者の同意なく共有物を売却した場合でも、売買契約自体が当然に無効となるわけではなく、特段の無効事由がない限り、少なくとも売主の持分範囲内では実体関係と符合し得る。
重要事実
被相続人Dの妻A1と子B1・B2の間で遺産分割協議がなされたが、B1らは同意しておらず無効であった。また、B2らは相続放棄の申述をしたが、真意に基づかないため無効とされた。しかし、A1は遺産分割が無効であるにもかかわらず、本件不動産全部を単独相続したとして自分名義に所有権移転登記を行い、さらに第三者(A2〜A6)に対して売買または売買予約を行い、移転登記や仮登記を経由させた。これに対し、B1・B2が共有持分権に基づき、これら全登記の抹消を求めた事案である。
事件番号: 昭和33(オ)720 / 裁判年月日: 昭和35年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】相続による不動産の取得も、対抗問題(民法177条)となり得るが、相手方がその権利取得の事実を争わない場合には、登記の欠缺を理由に権利取得を否定することはできない。 第1 事案の概要:被上告人らは、共同相続を原因として本件山林の共有権を取得した。これに対し上告人は、被上告人らが共有権を取得した事実自…
あてはめ
1. 相続登記について:A1はB1・B2と共に3分の1の法定相続分を有している。遺産分割が無効であっても、A1名義の登記はA1の持分3分の1の範囲では実体関係と符合している。したがって、B1らが全部抹消を求めることは主張自体失当であり、持分に応じた更正登記手続等を求めるべきである。 2. 第三者への登記について:売主A1が持分権しか有しないのに全部を売却したとしても、売買契約自体は有効に成立し得る。錯誤等の無効原因がない限り、A1の持分3分の1の範囲では第三者への権利移転は実体関係と符合する可能性がある。原審が「他の共有者の同意がないから売買は無効」として全部抹消を認めたのは、売買の法理を誤解した理由不備がある。
結論
1. 相続登記の全部抹消請求は認められない(持分範囲で有効)。 2. 他の共有者の同意がない売買という理由だけで、直ちに登記全部の抹消を命じることはできない。
実務上の射程
物権的請求権に基づく登記抹消請求の「全部抹消」と「一部抹消(更正登記)」の限界を示す射程を持つ。答案上は、共同相続人の一人が勝手に単独登記をした際の防衛手段として、全部抹消を請求した場合には「持分範囲で実体符合」を理由に請求が一部排斥される(更正登記にすべき)という論理で使用する。また、共有物の処分と売買契約の有効性を区別して論じる際にも有用である。
事件番号: 昭和33(オ)602 / 裁判年月日: 昭和36年6月6日 / 結論: 棄却
順次なされた所有権移転登記の中間取得者のみを被告とし、当該被告よりさらに移転登記を受けた者を共同被告としない抹消登記手続請求も許される。
事件番号: 昭和27(オ)743 / 裁判年月日: 昭和30年9月30日 / 結論: 棄却
一 相続の放棄が無効であることの確認を求める訴は、不適法である。 二 相続の放棄が無効であることの確認を求める請求に対し、被告が、口頭弁論において、原告の請求どおりの判決を求める旨陳述しても、請求の認諾の効力を生ずるものではない。
事件番号: 昭和34(オ)1280 / 裁判年月日: 昭和36年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲渡において、第一の譲受人は、自らが未だ所有権移転登記を備えていない以上、第二の譲受人に対して所有権の取得を対抗することができない。これは、第二の譲受人の有する登記が有効であるか否かを問わない。 第1 事案の概要:上告人は、本件不動産を譲り受けたと主張しているが、未だその所有権取得の登…
事件番号: 昭和33(オ)177 / 裁判年月日: 昭和35年12月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】通謀虚偽表示による無効は、第三者に対しても原則として主張することができ、また、虚偽表示の当事者から仮装の売買契約に基づき登記を移転した者は、不動産登記法上の「第三者」(民法177条)には該当しない。 第1 事案の概要:不動産の本来の譲受人である被上告人に対し、上告人と譲渡人Dは通謀して、昭和16年…