判旨
通謀虚偽表示による無効は、第三者に対しても原則として主張することができ、また、虚偽表示の当事者から仮装の売買契約に基づき登記を移転した者は、不動産登記法上の「第三者」(民法177条)には該当しない。
問題の所在(論点)
1. 通謀虚偽表示による無効を、当事者以外の第三者が主張できるか。2. 実体関係のない仮装の売買に基づき登記を経由した者は、民法177条の「第三者」に該当し、他者の権利取得に対して登記の欠缺を主張できるか。
規範
1. 通謀虚偽表示(民法94条1項)による意思表示の無効は、何人からも主張することができる。2. 不動産物権変動の対抗要件(民法177条)における「第三者」とは、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する者を指すところ、虚偽表示により実体上の権利を有しないまま登記のみを備えた者は、これに該当しない。
重要事実
不動産の本来の譲受人である被上告人に対し、上告人と譲渡人Dは通謀して、昭和16年に上告人が譲渡人の先代Fから買い受けたとする虚偽の売渡証を作成した。上告人は、この仮装された売買を原因として、昭和28年に当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由した。被上告人は、上告人名義の登記が通謀虚偽表示に基づく無効なものであると主張して、所有権の確認を求めた。
あてはめ
1. 上告人と譲渡人Dとの間の売買は、交渉を有利に進めるために通謀してなされた仮装のものであり、民法94条1項により無効である。このような無効の主張は、何人からもなしうる。2. 上告人は、実体上の権利を譲り受けていないにもかかわらず、通謀に基づき登記のみを移転させたに過ぎない。したがって、上告人は被上告人の登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する「第三者」には当たらない。その結果、被上告人は登記なくして自己の権利取得を上告人に対抗できる。
結論
通謀虚偽表示は無効であり、実体上の権利を持たない仮装の登記名義人は、民法177条の「第三者」に含まれない。したがって、真実の所有者は登記がなくても、当該名義人に対して所有権を対抗できる。
事件番号: 昭和33(オ)169 / 裁判年月日: 昭和34年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産を元の所有者から譲り受けたと偽って第三者に譲渡した者は、真の譲受人に対して民法177条の「第三者」に該当しない。無権利者から不動産を譲り受けた者、およびその転得者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者に当たらないためである。 第1 事案の概要:本件宅地について、被上告人は元所有者Dから…
実務上の射程
虚偽表示による登記名義人に対し、真実の権利者が登記なしで権利主張する際の根拠となる。177条の「第三者」の範囲を「正当な利益を有する者」に限定する判例法理(背信的悪意者排除の前提となる考え方)の具体例として、答案上で引用可能である。
事件番号: 昭和34(オ)1280 / 裁判年月日: 昭和36年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲渡において、第一の譲受人は、自らが未だ所有権移転登記を備えていない以上、第二の譲受人に対して所有権の取得を対抗することができない。これは、第二の譲受人の有する登記が有効であるか否かを問わない。 第1 事案の概要:上告人は、本件不動産を譲り受けたと主張しているが、未だその所有権取得の登…
事件番号: 昭和27(オ)128 / 裁判年月日: 昭和32年9月19日 / 結論: 棄却
一 真正の相続人が家督相続の回復をしない限り、真正相続人以外の第三者は、個々の特定財産についても、表見家督相続人に対し、相続の無効を理由として、その承継取得の効力を争うことはできない。 二 表見相続人が被相続人の子であるものとしてなされた家督相続につき相続の無効を主張できない者は、被相続人の妻が表見相続人の母(親権者)…
事件番号: 昭和33(オ)720 / 裁判年月日: 昭和35年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】相続による不動産の取得も、対抗問題(民法177条)となり得るが、相手方がその権利取得の事実を争わない場合には、登記の欠缺を理由に権利取得を否定することはできない。 第1 事案の概要:被上告人らは、共同相続を原因として本件山林の共有権を取得した。これに対し上告人は、被上告人らが共有権を取得した事実自…
事件番号: 昭和36(オ)572 / 裁判年月日: 昭和37年7月17日 / 結論: 棄却
実体にそわない所有権移転登記は、その抹消登記手続がなされていなくても、第三者は右登記を受けた者の所有権取得を否認し得る。