判旨
憲法25条は、個人の自由な意思に基づく契約により生じた家屋明渡債務につき、裁判所がその履行を命ずることを禁ずるものではない。また、簡裁を第一審とする民事事件の上告審を高等裁判所とする制度も憲法に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 自由な契約に基づく家屋明渡債務の強制執行は、憲法25条の生存権を侵害し違憲となるか。 2. 簡易裁判所を第一審とする事件の上告審を高等裁判所とする民事訴訟法等の規定は、憲法上の審級制度や裁判を受ける権利に違反するか。
規範
憲法25条は、国に対して国民の生活保障を求める権利を規定したものであり、私人間で自由な意思に基づき締結された契約による義務の履行を、裁判所が執行することまでを禁止する趣旨ではない。また、審級制度については、憲法81条が定める最高裁判所の権限を除き、立法府の広範な裁量に委ねられている。
重要事実
上告人は、相手方との間で成立した調停に基づき家屋明渡の債務を負担することとなった。しかし、上告人は当該調停調書に基づく強制執行の排除を求め、家屋の明渡しは生活権を奪うものであり憲法25条に違反すると主張した。さらに、本件が簡易裁判所を第一審とする事件であり、上告審が高等裁判所となる仕組みについても憲法違反(32条、76条、81条)を訴えた。
あてはめ
1. 本件家屋明渡債務は当事者間に成立した調停(自由な意思に基づく合意)により生じたものである。憲法25条は、このような私的自治に基づく債務履行の強制を妨げるものではなく、執行力を認めた原判決に憲法違反はない。 2. 審級制度は法律に委ねられており、簡裁事件の上告審を高等裁判所と定めた民訴法等の規定は、最高裁判所が違憲審査権を最終的に行使し得る仕組みが維持されている限り、憲法に抵触しない。
結論
本件調停調書に基づく執行力の排除請求を排斥した原判決は正当であり、憲法25条、32条、76条、81条のいずれにも違反しない。
実務上の射程
憲法25条の法的性格(プログラム規定説的な理解)を前提に、私的自治に基づく義務履行の強制が生存権侵害を理由に制限されないことを示す。答案上は、私法上の義務と生存権の関係が問われた際、国の公権力行使(執行)が直ちに憲法違反とならない根拠として簡潔に引用する。
事件番号: 昭和24(ク)52 / 裁判年月日: 昭和31年10月31日 / 結論: 棄却
家屋明渡請求訴訟事件につき、戦時民事特別法第一九条第二項、金銭債務臨時調停法第七条第一項によつてなされた調停に代わる裁判は、憲法第一一条、第一三条、第二二条、第二五条、第三二条に違反しない。
事件番号: 昭和34(オ)170 / 裁判年月日: 昭和37年4月10日 / 結論: 棄却
借家契約を合意解除するとともに、賃貸人において賃借人に対し二年間の明渡猶予を認め、賃借人において賃貸人に対し造作買収請求権を放棄する旨を定めた和解契約は、借家法第六条に違反しない。