判旨
文書上の印影が本人または代理人の印章によるものと認められるときは、民事訴訟法228条4項(旧326条)により、その文書は真正に成立したものと推定される。また、農地の贈与契約は、農地法による知事の許可があった日に確定的に効力を生じる。
問題の所在(論点)
1. 本人届出の印鑑と同一の印影が文書に存在する場合、民事訴訟法228条4項に基づき文書の真正成立を認めてよいか。2. 農地の贈与契約の効力はいつ発生するか。
規範
民事訴訟法228条4項(旧326条)の規定により、私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定される。文書上の印影が本人等の印章と合致する(二段の推定の第一段階)ならば、反証のない限り、本人の意思に基づく押印と推定され、その結果、文書全体の成立の真正(第二段階)が推定される。また、農地等の権利移転を目的とする契約は、農地法上の許可を停止条件として、許可のあった日にその効力を生じる。
重要事実
上告人と被上告人の間で農地の贈与契約が締結された。本件の各証書には上告人の名下に印影があったが、鑑定の結果、当該印影は上告人が届け出ている印鑑によるものと同一であることが判明した。また、当該農地の権利移転については、後に農地法に基づく知事の許可がなされている。上告人は、文書の真正成立および贈与契約の効力発生時期を争って上告した。
あてはめ
1. 鑑定により、書面上の印影が上告人の届出印によるものであると認められる以上、特段の事情がない限り、上告人の意思に基づく押印であると事実上推定される。したがって、民訴法228条4項により、当該文書が真正に成立したものと推定した原審の判断は正当である。2. 証拠に基づき認定された贈与契約について、農地法による知事の許可があったことが認められるため、当該許可の日をもって贈与契約は確定的に効力を生じたと解するのが相当である。
結論
上告棄却。文書の真正成立の推定および農地法上の許可による贈与契約の効力発生を認めた原判決に違法はない。
事件番号: 昭和32(オ)612 / 裁判年月日: 昭和36年6月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法94条2項の適用における善意・無過失の要否について、原審が認定した事実に基づき、相手方が善意かつ無過失であれば保護されることを前提に上告を棄却した。 第1 事案の概要:上告人が、被上告人に対し、何らかの権利関係(詳細は判決文からは不明)につき虚偽の表示や悪意の存在を主張して争った事案。原審は、…
実務上の射程
二段の推定のうち、一段目の『本人の意思に基づく押印』を導く前提として、印影の一致が重要であることを示す。実務上、印影が本人(届出印)のものであることが証明されれば、反証がない限り文書全体の真正が認められるという定型的な処理の根拠となる。また、農地法許可を要する契約の効力発生時期についても標準的な判断基準を示すものである。
事件番号: 昭和34(オ)642 / 裁判年月日: 昭和35年11月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地法上の許可を停止条件とする農地の売買契約において、地目が畑であり実態が農地であると認められる場合には、その性質に基づき適法な事実認定がなされるべきである。 第1 事案の概要:被上告人らは、上告人から本件土地を北海道知事の許可を停止条件として買い受けた。本件土地の地目は「畑」であり、原審において…
事件番号: 昭和30(オ)318 / 裁判年月日: 昭和32年3月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民事訴訟法228条4項(旧326条)による二段の推定は文書の成立の真正を推定するにとどまり、記載内容の真実性(実質的証拠力)を当然に認めるものではない。 第1 事案の概要:上告人は、原審における証拠の取捨選択および判断の過程において、民訴法326条(現228条4項)の解釈に誤りがあるとして上告を提…
事件番号: 昭和36(オ)1228 / 裁判年月日: 昭和37年4月26日 / 結論: 棄却
県知事に対する農地所有権移転許可申請書に、譲渡人、譲渡人と表示して各記名捺印がなされ、「権利を移転しようとする事由の詳細」の項に本件農地を贈与することにした旨、「権利を移転しようとする契約の内容」の項に無償贈与とする旨の各記載がある以上、該申請書は民法第五五〇条の書面に当る。
事件番号: 昭和38(オ)1332 / 裁判年月日: 昭和40年7月22日 / 結論: 棄却
農地の権利移転についての知事の許可書の内容が不当に改ざんされたからといつて、一たん発生した許可処分の効力に何らの消長をもきたさない。