県知事に対する農地所有権移転許可申請書に、譲渡人、譲渡人と表示して各記名捺印がなされ、「権利を移転しようとする事由の詳細」の項に本件農地を贈与することにした旨、「権利を移転しようとする契約の内容」の項に無償贈与とする旨の各記載がある以上、該申請書は民法第五五〇条の書面に当る。
民法第五五〇条の書面に当るとされた事例
民法550条
判旨
農地法上の許可申請書に、譲渡人と譲受人の署名捺印があり、贈与の事実や無償贈与の契約内容が具体的に記載されている場合、民法550条にいう「書面」に該当する。
問題の所在(論点)
農地法等の行政上の許可申請を目的として作成された書類が、民法550条にいう「書面」に該当し、贈与の撤回を封じることができるか。
規範
民法550条の「書面による贈与」における書面とは、贈与者の贈与意思が外部に明確に表示された書面であれば足り、必ずしも当事者間において作成・交換された形式の書面に限られない。
重要事実
農地である本件土地につき、贈与者Aと受贈者Bは農地法上の許可申請書を作成した。当該申請書には、譲渡人A・譲受人Bとして各々の署名捺印があり、かつ「権利を移転しようとする事由」として贈与するに至った経緯が、「契約の内容」として無償贈与とする旨が具体的に記載されていた。
事件番号: 昭和32(オ)742 / 裁判年月日: 昭和32年11月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】文書上の印影が本人または代理人の印章によるものと認められるときは、民事訴訟法228条4項(旧326条)により、その文書は真正に成立したものと推定される。また、農地の贈与契約は、農地法による知事の許可があった日に確定的に効力を生じる。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間で農地の贈与契約が締結され…
あてはめ
本件許可申請書には、贈与者および受贈者の氏名・捺印が備わっており、贈与の対象となる土地の表示に加え、無償贈与とする旨の契約内容が明記されている。このような記載内容は、贈与者が受贈者に対し本件土地を無償贈与する意思を十分に外部へ表示するものといえる。したがって、当事者間で直接取り交わされた贈与契約書そのものではなくとも、実質的に贈与の確実性が担保された書面であると評価できる。
結論
本件許可申請書は民法550条の「書面」に該当するため、本件贈与を撤回することはできない。
実務上の射程
贈与の意思表示が明確であれば、行政庁に提出する書類や第三者宛ての文書であっても「書面」性を認めるのが判例の傾向である。答案上は、書面の名称や形式にとらわれず、贈与の意思が客観的に確定しているかという実質面からあてはめるべきである。
事件番号: 昭和30(オ)657 / 裁判年月日: 昭和32年5月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の贈与について都道府県知事の許可が得られていない場合であっても、当該許可を停止条件とする贈与契約は有効に成立する。 第1 事案の概要:上告人は、本件農地を贈与する旨の契約を締結したが、都道府県知事の許可が得られていないことを理由に、贈与契約は無効であり、許可申請手続を履行する義務もないと主張し…
事件番号: 昭和35(オ)604 / 裁判年月日: 昭和38年4月2日 / 結論: 棄却
一、自作農創設特別措置法により政府より売渡を受けた農地でも知事の許可または農地委員会の承認があれば、その所有権を他に移転できる。 ニ、昭和二六年一月二五日に締結された農地売買契約につき、所有権移転の時期を昭和三一年一月二四日とし売買代金額も実際と異つた額が許可申請書に記載されていたとしても、原判示のもとでは、右に対する…
事件番号: 昭和53(オ)831 / 裁判年月日: 昭和53年11月30日 / 結論: 棄却
甲が乙を相手方として申し立てた財産処分禁止請求調停事件に丙が利害関係人として参加して調停が成立し、調停調書に「乙は、その所有地のうち約四五坪(別紙図面記載の丙所有部分)を除いた部分を処分しようとするときには、甲と約一〇日前に相談のうえでする」旨の条項が記載されたが、右調停調書において丙所有部分として約四五坪の土地が除外…
事件番号: 昭和36(オ)1026 / 裁判年月日: 昭和37年4月27日 / 結論: 棄却
上告理由として原審に提出した準備書面を引用するというだけの部分は、適式な上告理由書とならない。(昭和二八年一一月一一日大法廷判決、民集七巻一一号一一九三頁参照)