甲が乙を相手方として申し立てた財産処分禁止請求調停事件に丙が利害関係人として参加して調停が成立し、調停調書に「乙は、その所有地のうち約四五坪(別紙図面記載の丙所有部分)を除いた部分を処分しようとするときには、甲と約一〇日前に相談のうえでする」旨の条項が記載されたが、右調停調書において丙所有部分として約四五坪の土地が除外されたのは、右調停に際し、乙から丙に対し右土地を贈与する合意が成立したためであるときは、右調停調書は、乙、丙間の贈与について作成された民法五五〇条所定の書面にあたる。
民法五五〇条所定の書面にあたるとされた事例
民法550条
判旨
民法550条にいう「書面」による贈与とは、贈与の意思表示自体が書面化されている必要はなく、当事者の関与の下に作成された書面から贈与の事実を確実に看取できれば足りる。利害関係人として参加した調停の調書において、贈与対象物件を「相手方所有」と記載したことは同条の「書面」にあたる。
問題の所在(論点)
民法550条の「書面」による贈与といえるためには、贈与の意思表示そのものが書面に記載されている必要があるか。また、第三者が介在する手続で作成された調停調書が同条の「書面」に該当するか。
規範
民法550条が「書面によらない贈与」を取り消し得るとした趣旨は、贈与者の軽率な贈与を予防し、かつ贈与の意思を明確にして後日の紛争を避ける点にある。したがって、同条にいう「書面」といえるためには、贈与の意思表示自体が書面になされることや、贈与の直接当事者間で作成され「贈与」等の文言が記載されることは必ずしも必要ではない。当事者の関与または了解の下に作成された書面において、贈与があったことを確実に看取しうる程度の記載があれば足りる。
重要事実
上告人の娘が上告人を相手方として申し立てた財産処分禁止請求調停において、被上告人らが利害関係人として参加した。成立した調停の条項には、上告人が土地を処分する際に娘と相談すべき義務を定める際、本件土地部分を「被上告人所有部分」として除外する旨の記載がなされた。この記載は、調停に際して上告人と被上告人との間で本件土地を贈与する旨の合意が成立したために記載されたものであった。その後、上告人が書面によらない贈与であるとして取消しを主張した。
事件番号: 昭和56(オ)434 / 裁判年月日: 昭和56年10月8日 / 結論: 棄却
書面によらないで土地を贈与した者が、その土地について占有及び登記名義を有しないためこれを受贈者に移転できない場合において、受贈者がその土地の登記名義人に対し所有権移転登記手続を求める訴訟を起こしたのち、その訴訟遂行を助けるため贈与者が受贈者に対しその土地の権利関係に関する証拠書類を交付したなど判示の事実関係があるときは…
あてはめ
本件調停調書は、贈与の当事者である上告人および被上告人が関与・参加した手続において作成されたものである。同書面には、本件土地が被上告人の所有であることを前提とした条項が記載されており、これは本件土地の所有権が贈与により被上告人に移転し帰属したことを端的に表示したものといえる。かかる記載から、贈与の事実を確実に看取することができる。したがって、贈与者の軽率な行為の防止および意思の明確化という趣旨を十分に満たしているといえる。
結論
本件贈与は民法550条の「書面」によってされたものといえるため、上告人はこれを取り消すことができない。
実務上の射程
550条の「書面」を広く解釈する重要判例である。答案上では、書面作成の経緯に当事者が「関与・了解」しているか、および記載内容から贈与の存在を「確実に看取」できるかという二点を具体的事実から検討する際の枠組みとして用いる。調停調書だけでなく、親族間の合意書や第三者宛の書面であっても本枠組みにより「書面」該当性が肯定される余地がある。
事件番号: 昭和57(オ)942 / 裁判年月日: 昭和60年11月29日 / 結論: 棄却
甲から不動産を取得した乙がこれを丙に贈与した場合において、乙が、司法書士に依頼して、登記簿上の所有名義人である甲に対し、右不動産を丙に譲渡したので甲から直接丙に所有権移転登記をするよう求める旨の内容証明郵便を差し出したなど判示の事情があるときは、右内容証明郵便は、民法五五〇条にいう書面に当たる。
事件番号: 昭和36(オ)1228 / 裁判年月日: 昭和37年4月26日 / 結論: 棄却
県知事に対する農地所有権移転許可申請書に、譲渡人、譲渡人と表示して各記名捺印がなされ、「権利を移転しようとする事由の詳細」の項に本件農地を贈与することにした旨、「権利を移転しようとする契約の内容」の項に無償贈与とする旨の各記載がある以上、該申請書は民法第五五〇条の書面に当る。
事件番号: 昭和36(オ)601 / 裁判年月日: 昭和38年9月3日 / 結論: 棄却
書面によらない負担付贈与契約に基づき当事者の一方が債務を履行したときは、書面によらない贈与であることを理由にこれを取消すことはできない。
事件番号: 昭和31(オ)818 / 裁判年月日: 昭和33年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成否を判断するにあたり、相手方が代理権があると信じたことに正当な理由があるかは、過去の交渉経緯や取引条件の合理性を総合して判断されるべきである。本件では、本人が過去に高値での売却を主張して拒絶した経緯や、代理人が提示した価格が本人の希望を大きく下回る点等に照らし、過失が認められ表見代理は…