書面によらない負担付贈与契約に基づき当事者の一方が債務を履行したときは、書面によらない贈与であることを理由にこれを取消すことはできない。
書面によらない負担付贈与契約の一方の履行と取消。
民法550条,民法553条
判旨
書面によらない負担付贈与契約において、当事者の一方が債務の履行を完了した後は、各当事者は民法550条に基づき契約の全部または一部を取り消すことはできない。
問題の所在(論点)
書面によらない負担付贈与契約において、一方の債務の履行が完了した後に、他方の当事者が民法550条に基づき契約を取り消すことができるか。
規範
書面によらない贈与であっても、履行が終了した部分については、その効力の不確定性を解消し法的安定を図るべきである。したがって、書面によらない負担付贈与契約において、贈与者または受贈者のいずれか一方が債務の履行を完了したときは、当事者双方は、書面によらない贈与であることを理由に当該契約の全部または一部を取り消すことはできない。
重要事実
受贈者(上告人)と贈与者(被上告人)の間で、土地の贈与を受ける代わりに、その土地の一部を分筆して贈与者に贈与し返すという内容の負担付贈与契約が書面によらずに締結された。贈与者は、契約に基づき土地の所有権移転登記を完了した。これに対し受贈者は、分筆登記までは完了したものの、所有権移転登記を行う前に、本件契約は書面によらない贈与であるとして民法550条に基づく取り消しを主張した。
事件番号: 昭和27(オ)480 / 裁判年月日: 昭和29年7月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の贈与において、書面によらない場合であっても、当該不動産の所有権移転登記が完了したときは、民法550条にいう「履行の終わった」ものと解され、もはや贈与の解除をすることはできない。 第1 事案の概要:本件は、書面によらずになされた不動産の贈与について、贈与者が民法550条に基づき贈与の撤回(取…
あてはめ
本件契約は、被上告人による土地贈与と、それに対する上告人の分筆再贈与という負担が対価的関係にある一箇の負担付贈与契約である。被上告人側の贈与および登記は既に完了しており、契約の一部について履行が終了しているといえる。このような場合、契約の不可分性に鑑み、未履行の部分が残っているとしても、もはや書面によらないことを理由とした取り消し権の行使は許されない。
結論
上告人による取り消しの意思表示は認められず、上告人は負担である土地の分筆・再贈与義務を免れない。上告を棄却する。
実務上の射程
民法550条ただし書の「履行の終わった部分」の解釈に関する射程を示す。負担付贈与が一個の契約である以上、一方の履行完了により全体として取り消しが制限されるという判断枠組みは、双務契約に準じた規律を認める趣旨(民法553条)にも適合し、答案上は負担付贈与の特殊性を論じる際に有用である。
事件番号: 昭和56(オ)434 / 裁判年月日: 昭和56年10月8日 / 結論: 棄却
書面によらないで土地を贈与した者が、その土地について占有及び登記名義を有しないためこれを受贈者に移転できない場合において、受贈者がその土地の登記名義人に対し所有権移転登記手続を求める訴訟を起こしたのち、その訴訟遂行を助けるため贈与者が受贈者に対しその土地の権利関係に関する証拠書類を交付したなど判示の事実関係があるときは…
事件番号: 昭和39(オ)370 / 裁判年月日: 昭和40年3月26日 / 結論: 棄却
不動産の贈与契約にもとづいて該不動産の所有権移転登記がなされたときは、その引渡の有無をとわず、民法第五五〇条にいう履行が終つたものと解すべきである。
事件番号: 昭和35(オ)1017 / 裁判年月日: 昭和36年12月12日 / 結論: 棄却
書面によらない贈与による権利の移転を認める判決が確定した後は、既判力の効果として民法第五五〇条による取消権を行使して右贈与による権利の存否を争うことは許されない。
事件番号: 昭和29(オ)361 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
賃借人の居住する家屋の売買で、売主が賃借人に家屋の明渡をなさしめた上これを買主に引渡す約定のある場合、買主が、しばしば売主に対し、賃借人に家屋の明渡をなさしめてこれが引渡をなすべきことを督促し、その間常に残代金を用意し、明渡があればいつでもその支払をなし得べき状態にあつた上、売主が、買主とともに賃借人方に赴き売買の事情…