判旨
選挙人が候補者の氏名を誤記した場合であっても、候補者の姓と名の混記ではなく、単なる誤記と認められるときは有効投票として扱うべきである。また、不在者投票や代理投票に一部違法があっても、直ちに選挙全体の無効や当選無効の原因とはならない。
問題の所在(論点)
1. 候補者名と異なる「中田C」等の記載がある投票の有効性(公職選挙法68条1項5号関連)。 2. 不在者投票や代理投票の手続上の違法が、選挙無効や当選無効の事由に該当するか。
規範
自書式投票において、候補者の氏名の記載に誤りがある場合、他の候補者の姓と特定の候補者の名との混記である等の特段の事情がない限り、客観的に特定の候補者の氏名を記載しようとしたものと認められれば、単なる誤記として有効投票と解すべきである。また、不在者投票や代理投票の手続に違法が認められる場合であっても、それが直ちに選挙結果の正当性を否定し、選挙無効(公職選挙法205条等)や当選無効の原因となるわけではない。
重要事実
村議会議員選挙において、当選人田中Cの得票の有効性が争われた。具体的には、(1)「中田C」と記載された票、(2)上下逆に「田中」と記載された票、(3)左端から「田中」と記載された票が含まれていた。また、不在者投票28票および代理投票147票に手続上の違法があった。原審は、これら(1)〜(3)の票を有効票と判断し、かつ、投票手続の違法は選挙無効の原因にはならないとしたため、上告人がその違法を主張して争った。
あてはめ
1. 本件候補者中に「中田」という姓の候補者は存在せず、選挙人が屋号を記載することは異例である。したがって、「中田C」という記載は、他の候補者の姓と田中Cの名を混記したものではなく、単に「田中C」と書こうとした誤記とみるのが相当である。また、上下逆や端への記載も、特定の候補者を指すことが客観的に明らかであるため、有効な投票と認められる。 2. 不在者投票や代理投票において計175票の違法が認定されているが、それらの違法は本件選挙の当選無効や選挙無効を導くほどの影響を持つものではない(判旨は原審の判断を是認)。
結論
1. 「中田C」等の誤記票は、田中Cに対する有効投票として算入される。 2. 一部の不在者投票等の手続違法は、直ちに選挙全体の無効や当選無効を導かない。上告棄却。
実務上の射程
自書式投票における「誤記」の有効性判断の基準を示した。司法試験においては、公職選挙法上の「有効投票」の解釈(特に混記か誤記かの判別)が問題となる場面で、選挙人の真意を客観的な事実(他の候補者の有無等)から推認する手法として活用できる。また、選挙訴訟における「選挙規定の違反」と「選挙結果への影響」の切り分け(公選法205条)を確認する際にも有用である。
事件番号: 昭和32(オ)803 / 裁判年月日: 昭和32年12月24日 / 結論: 破棄差戻
候補者中に下D康麿と上D愛一とがある場合に、下D(又は下D)愛一と記載された投票は上D愛一に対する有効投票と認めるべきである。
事件番号: 昭和32(オ)708 / 裁判年月日: 昭和32年10月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙手続に法令違反がある場合であっても、それが選挙の結果に異動を及ぼすおそれがないときには、当該選挙は無効とはならない。投票箱の空虚確認漏れ等の手続上の瑕疵は、実質的に公正が担保されていれば選挙無効の原因を構成しない。 第1 事案の概要:村議会議員選挙において、複数の手続上の問題が指摘された。具体…
事件番号: 昭和32(オ)352 / 裁判年月日: 昭和32年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】「クマダ」と記載された投票について、被上告人を指すものと解される事情がある場合には、公職選挙法68条等の無効事由に該当せず、有効な投票として扱うことができる。 第1 事案の概要:選挙において「クマダ」と記載された投票が1票存在した。この投票が公職選挙法68条(現行法の無効事由)に該当し、誰を指すか…
事件番号: 昭和32(オ)870 / 裁判年月日: 昭和32年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】「小D」と記載された投票が、特定の候補者である「木D」の誤記であると認められる場合には、当該候補者の有効投票として取り扱うべきである。 第1 事案の概要:選挙における投票において、投票用紙に「小D」と記載されたものがあった。一方で、本件選挙の候補者には「木D」という氏名の者が存在していた。原審はこ…