判旨
公職選挙法上の「住所」とは、単に本人の主観的な居住意思だけではなく、客観的に生活の本拠たる実体を伴う場所を指す。したがって、住所とする意思があっても、客観的な生活の実体が認められない場合は、同法上の住所とは認められない。
問題の所在(論点)
公職選挙法における「住所」の意義、および特定の場所を住所と認定するために「客観的に生活の本拠たる実体」が必要か否か。
規範
公職選挙法上の住所を認定するに際しては、その者の住所とする意思(主観的要素)だけでは足りず、客観的に生活の本拠たる実体(客観的要素)を必要とする。
重要事実
上告人は、昭和29年12月下旬以来、横須賀市内の特定の場所を住所にしようとする意思を有していた。しかし、本件選挙期日に至るまで、当該場所において上告人の生活の本拠たる実体を備えるには至っていなかった。原審はこの事実関係に基づき、上告人が当該場所に3か月以上住所を有していたとは認められないと判断した。
あてはめ
上告人には当該場所を住所とする主観的な意思があった可能性は否定できない。しかし、住所の認定には客観的実体が必要であるところ、本件では選挙期日に至るまで当該場所が生活の本拠たる実体を備えていたとは認められない。したがって、客観的要素を欠く以上、主観的意思の有無にかかわらず、当該場所を公職選挙法上の住所と認めることはできない。
結論
上告人が当該場所に住所を有していたとは認められず、上告は棄却される。
実務上の射程
公職選挙法のみならず、民法や地方自治法における「住所」の概念についても、本判例と同様に「生活の本拠」(民法22条等)として客観的実体を重視する解釈が一般的である。答案上では、形式的な住民票の有無や本人の主観的な意図に拘泥せず、寝食の状況や家財道具の搬入といった客観的事実から「生活の本拠」を認定する際の規範として用いる。
事件番号: 昭和35(オ)442 / 裁判年月日: 昭和35年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙人の意思を可能な限り尊重し、記載から特定の候補者を選ぶ意思が確認できる場合は有効とすべきであるが、同一の氏を称する候補者が複数存在する状況下で、記載された名が特定の候補者のものと認められず、かつ他候補者との区別が不明な投票は、無効と解するのが相当である。 第1 事案の概要:本件選挙には、「D」…
事件番号: 昭和31(オ)237 / 裁判年月日: 昭和31年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の投票の効力判定において、投票用紙に記載された文字が判読可能であり、かつ候補者の氏名と同一または類似する場合には、当該投票は有効と解される。本判決は、原審の事実認定および効力判定に法令違背がないとして上告を棄却した。 第1 事案の概要:本件は、選挙における各投票の効力が争われた事案であ…
事件番号: 昭和35(オ)493 / 裁判年月日: 昭和35年9月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の投票の効力判定において、候補者の氏名を正確に記載していない投票であっても、その記載内容から特定の候補者を指すと客観的に認められる場合には、当該候補者に対する有効投票として認められる。 第1 事案の概要:村議会議員選挙において、被上告人(候補者)に対するものと考えられる投票の中に、「D…
事件番号: 昭和32(オ)467 / 裁判年月日: 昭和32年10月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】候補者の氏名に類似する実在の他人の氏名が記載された投票であっても、諸般の事実を総合して当該候補者への投票の意思が認められる場合には、当該候補者の有効投票と解すべきである。 第1 事案の概要:選挙において「B一郎」と記載された投票が52票あった。本件選挙には「B永一郎」という候補者が存在したが、一方…
事件番号: 昭和35(オ)711 / 裁判年月日: 昭和35年10月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】投票用紙に候補者の氏名のほか「江」という敬称を付す記載は、公職選挙法68条5号の他事記載に該当し無効である。一方で、氏名の誤記や他候補者の氏名との混同がある場合でも、他候補者の氏名等と比較して特定の候補者に対する投票意思が認められれば有効となる。 第1 事案の概要:村長選挙の効力に関する訴訟におい…