判旨
選挙人の意思を可能な限り尊重し、記載から特定の候補者を選ぶ意思が確認できる場合は有効とすべきであるが、同一の氏を称する候補者が複数存在する状況下で、記載された名が特定の候補者のものと認められず、かつ他候補者との区別が不明な投票は、無効と解するのが相当である。
問題の所在(論点)
公職選挙法における自書投票において、記載内容が候補者の氏名と完全には一致しない場合、どの程度の不明瞭さがあれば投票が無効となるか。特に、同姓の候補者が複数存在する状況下での「氏のみ」や「誤記」の効力が問題となる。
規範
公職選挙法における投票の効力判定にあたっては、選挙人の意思を可能な限り尊重し、その記載から特定の候補者を選挙する意思が合理的に確認し得る限り、できる限り有効とすべきである。ただし、同一の氏を称する候補者が複数存在する事案において、記載された名が特定の候補者の名とは認め難く、かつ当該氏を持つ候補者のうち誰を指すのか、あるいは候補者でない特定の者を指すのかが判別不能である場合には、その投票は無効となる。
重要事実
本件選挙には、「D」という氏を称する候補者が5名立候補していた。その中で、「Dフサコ」「Dしげ子」「Dシヅコ」「Eツネ」と記載された投票や、「Dセン」(「先生」の略称と主張されたもの)、「D」のみの記載、さらに「Dヒロ」(D寛治という他候補がいた)と記載された投票の効力が争われた。原審は、これらについて特定の候補者を選挙する意思が不明であるとして無効と判断した。
あてはめ
まず、投票の有効性は選挙人の意思を重んじるべきという一般原則が妥当する。しかし、本件ではD氏の候補者が5名も存在する以上、「D」のみの記載や、各候補者の名(「初子」等)とは到底認められない名(「フサコ」等)の記載は、5名のうち誰を指すのか特定できない。また、「Dヒロ」という記載についても、他に「D寛治(ヒロハル)」が存在する状況では、補助参加人(D初子)に対する誤記と断定する根拠はない。したがって、これらは特定の候補者を選ぶ意思が客観的に確定できないため、無効と判断せざるを得ない。
結論
特定の候補者を指す意思が確認できない投票は、選挙人の意思を尊重する原則を考慮してもなお、無効とすべきである。本件の各投票を無効とした原審の判断は正当である。
事件番号: 昭和35(オ)493 / 裁判年月日: 昭和35年9月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の投票の効力判定において、候補者の氏名を正確に記載していない投票であっても、その記載内容から特定の候補者を指すと客観的に認められる場合には、当該候補者に対する有効投票として認められる。 第1 事案の概要:村議会議員選挙において、被上告人(候補者)に対するものと考えられる投票の中に、「D…
実務上の射程
自書投票の有効性に関する基本的枠組みを示す。答案上は、誤記や略称がある投票の効力が問われた際、本判例を引用して「選挙人の意思の尊重」と「客観的な特定の可否」の二面から検討する。特に同姓候補者がいる場合の「氏のみ」投票の危険性を論じる際に有用である。
事件番号: 昭和35(オ)711 / 裁判年月日: 昭和35年10月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】投票用紙に候補者の氏名のほか「江」という敬称を付す記載は、公職選挙法68条5号の他事記載に該当し無効である。一方で、氏名の誤記や他候補者の氏名との混同がある場合でも、他候補者の氏名等と比較して特定の候補者に対する投票意思が認められれば有効となる。 第1 事案の概要:村長選挙の効力に関する訴訟におい…
事件番号: 昭和35(オ)871 / 裁判年月日: 昭和35年12月2日 / 結論: 棄却
a組が候補者A久市が代表取締役である会社名であるとしても、他の候補者A道徳の氏名を明記しa組を附記した投票は右A久市に対する有効投票とはいえない。
事件番号: 昭和31(オ)237 / 裁判年月日: 昭和31年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の投票の効力判定において、投票用紙に記載された文字が判読可能であり、かつ候補者の氏名と同一または類似する場合には、当該投票は有効と解される。本判決は、原審の事実認定および効力判定に法令違背がないとして上告を棄却した。 第1 事案の概要:本件は、選挙における各投票の効力が争われた事案であ…
事件番号: 昭和45(行ツ)52 / 裁判年月日: 昭和45年10月23日 / 結論: 破棄差戻
候補者中にD英実とE英七とがある場合に、D英七と記載された投票は、D英実に対する有効投票と認めるべきである。