判旨
候補者の氏名に類似する実在の他人の氏名が記載された投票であっても、諸般の事実を総合して当該候補者への投票の意思が認められる場合には、当該候補者の有効投票と解すべきである。
問題の所在(論点)
公職選挙法上の自書式投票において、候補者以外の実在する人物の氏名(又はそれに酷似する氏名)が記載された場合、当該投票を当該候補者への有効投票と認めることができるか。実在する他人の存在が有効投票の推定を妨げるかが問題となる。
規範
投票の効力判断においては、記載された氏名が候補者の氏名と完全に一致しなくとも、諸般の事実を総合して、選挙人が特定の候補者に投票する意思をもって記載したものと判読できる場合には、当該候補者に対する有効投票として取り扱うべきである。この判断にあたっては、候補者と類似する氏名を持つ実在の他人の存在は、当該候補者への投票意思の推定を直ちに破るものではない。
重要事実
選挙において「B一郎」と記載された投票が52票あった。本件選挙には「B永一郎」という候補者が存在したが、一方で「B一郎」という氏名の人物も実在していた。原審は、諸般の事実を認定した上で、これらの投票はすべて「B永一郎」候補の氏名または名を記載したものと判読でき、実在する「B一郎」その人に投票したものとは認められないと判断した。これに対し、上告人は実在人物の存在を理由に無効または他者への投票とすべきと主張して上告した。
あてはめ
本件における「B一郎」票について、原審が認定した諸般の事実(判決文からは詳細は不明だが、地域情勢や候補者の知名度等を含むと推認される)を総合すれば、当該記載は「B永一郎」候補の氏名を指すものと判読可能である。他人の氏名と一致する「B一郎」なる人物が実在するとしても、その事実のみで「選挙人が候補者B永一郎に投票する意思をもって記載した」という合理的推定が覆されるわけではない。したがって、これら52票は候補者B永一郎への有効投票と解するのが相当である。
結論
「B一郎」と記載された投票は、候補者「B永一郎」に対する有効投票として認められる。上告棄却。
事件番号: 昭和39(行ツ)69 / 裁判年月日: 昭和40年2月9日 / 結論: 棄却
候補者D道男の長男でその地方において著名人であるD道太の氏名に合致する記載のある投票は、原判示の事情(原判決理由参照)のもとにおいては、無効と解すべきである。
実務上の射程
自書式投票の有効性に関する判断基準を示す。誤記や略記がある場合でも、実在の他人の存在のみを理由に一律に無効とするのではなく、個別具体的な諸般の事情から「投票の意思」を合理的に探究すべきとする実務指針となる。答案上は、投票の有効性が争われる場面で、客観的な記載内容と主観的な投票意思の合致を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)237 / 裁判年月日: 昭和31年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の投票の効力判定において、投票用紙に記載された文字が判読可能であり、かつ候補者の氏名と同一または類似する場合には、当該投票は有効と解される。本判決は、原審の事実認定および効力判定に法令違背がないとして上告を棄却した。 第1 事案の概要:本件は、選挙における各投票の効力が争われた事案であ…
事件番号: 昭和35(オ)442 / 裁判年月日: 昭和35年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙人の意思を可能な限り尊重し、記載から特定の候補者を選ぶ意思が確認できる場合は有効とすべきであるが、同一の氏を称する候補者が複数存在する状況下で、記載された名が特定の候補者のものと認められず、かつ他候補者との区別が不明な投票は、無効と解するのが相当である。 第1 事案の概要:本件選挙には、「D」…
事件番号: 昭和35(オ)493 / 裁判年月日: 昭和35年9月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の投票の効力判定において、候補者の氏名を正確に記載していない投票であっても、その記載内容から特定の候補者を指すと客観的に認められる場合には、当該候補者に対する有効投票として認められる。 第1 事案の概要:村議会議員選挙において、被上告人(候補者)に対するものと考えられる投票の中に、「D…
事件番号: 昭和35(オ)871 / 裁判年月日: 昭和35年12月2日 / 結論: 棄却
a組が候補者A久市が代表取締役である会社名であるとしても、他の候補者A道徳の氏名を明記しa組を附記した投票は右A久市に対する有効投票とはいえない。