一 (略)(本件原審判決は、高裁民集一〇巻二号七五頁に登載あり) 二 宗派主管者の承認なしに住職が寺院所有地を賃貸したとき、右寺院は宗派主管者に対して右賃貸借について承認を求める手続をとる義務を負うと解すべき法律上の根拠はない。
一 宗派主管者の承認なしに住職が寺院所有地を賃貸した相手方に対し寺院からした建物収去土地明渡請求が権利濫用に当るとした原審の判断が正当でないとされた事例 二 宗派主管者の承認なしに住職が寺院所有地を賃貸した場合と寺院の手続義務
民法1条,宗教法人令(昭和21年勅令70号による改正後)11条
判旨
戦災に遭った寺院が復興資金調達のために土地の明渡しを求めることは、客観的な必要性があり他の方策が困難であれば、単なる利慾に基づくものとはいえず権利の濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
民法1条3項(権利の濫用)。寺院が復興資金を得るために、土地賃借人(無効な賃貸借に基づく占有者)に対して建物の収去及び土地の明渡しを求めることが、権利の濫用として許されないとされるのはどのような場合か。
規範
権利の濫用(民法1条3項)の成否は、権利行使によって得られる利益と、相手方が被る不利益を比較衡量し、信義誠実の原則に照らして判断される。特に土地明渡し請求において、請求者が客観的に見て経済的困窮や事業再建の必要性などの正当な理由を有しており、他に代替手段を講じることが困難な事情がある場合には、その請求は「一方的な利慾」に基づくものとは評価できず、権利の濫用とは認められない。
重要事実
宗教法人である上告人は、戦災で堂宇を焼失し、寺院の復興再建を迫られていた。上告人の住職は、檀信徒総代との協議の結果、本件土地を含む全寺有地を一括売却し、その代金で安価な土地を購入して再建する計画を立て、宗派主管者の承認も得た。一方で、被上告人らは本件土地を賃借し(ただし宗派主管者の承認がなく無効)、建物を所有して占有していた。上告人が被上告人らに対し建物収去土地明渡しを求めたところ、原審は「残りの土地で再建可能であり、高値売却を狙う一方的な利慾による請求」として権利の濫用を認めたため、上告人が上告した。
事件番号: 昭和31(オ)627 / 裁判年月日: 昭和33年7月3日 / 結論: 棄却
土地改良法第八条第四項による書類の縦覧期間が法定の二〇日間に満たなくても、満一〇日間縦覧期間が存した以上、同法第一〇条第一項によつてした知事の土地改良区設立認可は当然無効ではない。
あてはめ
上告人は戦災により堂宇を失い、再建資金を得るためには寺有地を有利な条件で売却する必要がある経済的環境にあった。住職らは檀信徒総代と協議を重ね、一括処分という再建案を決定し、宗派代表役員の承認も得ている。これらの事情を仔細に検討すれば、上告人において売却以外に再建資金を調達する方法を求めることは困難であったといえる。したがって、本件明渡し請求は、単に高値で売却したいという一方的な利慾に出たものとはいえず、寺院再建という切実な必要性に基づいた正当な権利行使としての側面が強い。
結論
本件土地明渡し請求を漫然と「一方的利慾」に基づき信義に反すると断じ、権利の濫用に当たると判断した原判決には、審理不尽および法令適用の誤りがあるため、破棄を免れない。
実務上の射程
形式上は権利が認められる局面(本件では賃貸借が無効)であっても、権利の濫用が抗弁として主張される事案における、再建の必要性という「主観的・目的的要素」の考慮の仕方を提示している。答案上は、明渡しを求める側の切実な事情や代替手段の有無を具体的に拾う際の考慮要素として活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)177 / 裁判年月日: 昭和35年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代物弁済契約が有効と認められるためには、対象物件の価格が当時の貨幣価値を斟酌した債権額とおよそ相応し、両者の間に著しい差異がないことが必要である。また、不法占有者に対する建物収去土地明渡請求は、特段の事情がない限り権利の濫用には当たらない。 第1 事案の概要:債務者Dは、被上告学園に対し計15万円…
事件番号: 昭和32(オ)890 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地の明渡請求が権利の乱用に該当するか否かは、具体的な事実関係に基づき、請求によって得られる利益と相手方の被る不利益等を比較衡量して判断されるべきであり、本件においては権利の乱用にはあたらない。 第1 事案の概要:上告人(被告)らが占有する本件土地につき、被上告人(原告)が土地明渡を求めた事案であ…
事件番号: 昭和33(オ)1024 / 裁判年月日: 昭和35年9月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地所有者が土地の使用を容認していたとはいえない状況において、当該土地の明渡し等を求める請求は、特段の事情がない限り権利の濫用(民法1条3項)には当たらない。 第1 事案の概要:上告人(被告)が本件土地を使用していたところ、被上告人ら(原告)が土地所有権に基づき本訴請求(明渡し等)を提起した。上告…
事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求さ…