判旨
代物弁済契約が有効と認められるためには、対象物件の価格が当時の貨幣価値を斟酌した債権額とおよそ相応し、両者の間に著しい差異がないことが必要である。また、不法占有者に対する建物収去土地明渡請求は、特段の事情がない限り権利の濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 代物弁済契約の有効性を判断するにあたり、物件価格と債権額の均衡をどのように評価すべきか。2. 土地所有者による建物収去土地明渡請求が権利の濫用に当たるか。
規範
代物弁済(民法482条)の有効性判断においては、給付される物件の価格と債権額との均衡が考慮されるべきであり、両者が当時の貨幣価値に照らして概ね相応し、著しい差異がない場合には、公序良俗違反等の問題を生じず有効と解される。また、権利の行使が正当な利益を欠き、相手方に不当な苦痛を与えるなどの事情がない限り、権利の濫用(民法1条3項)とはならない。
重要事実
債務者Dは、被上告学園に対し計15万円の債務を負っていた。Dは当該債務の弁済に代えて、既に被上告学園の担保に供され、かつ同園が使用権を有していた土地を譲渡する旨の代物弁済契約を自ら申し出た。学園側は当初これを希望していなかったが、やむなく承諾した。その後、学園は同土地上の建物を所有する上告人に対し、建物収去土地明渡を求めて提訴したが、上告人は当該請求が権利の濫用に当たると主張した。
あてはめ
1. 本件土地は既に15万円の債務の担保となっており、大部分について被上告学園が使用権を有していた。このような利用状況や負担を考慮すれば、15万円という債権額は土地価格とおよそ相応しており、著しい差異はないと認められる。したがって、当該代物弁済契約は有効である。2. 上告人による本件土地の占有は不法占有であり、正当な権原に基づかない。被上告学園は適法に取得した所有権に基づき明渡しを求めているのであり、不法占有者に対して明渡しを求める行為は正当な権利行使であって、権利の濫用とは認められない。
結論
本件代物弁済契約は有効であり、これに基づく建物収去土地明渡請求は権利の濫用に当たらないため、上告人の請求を棄却した原審の判断は正当である。
事件番号: 昭和30(オ)645 / 裁判年月日: 昭和31年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物明渡請求が権利の濫用に当たるか否かは、請求側の正当な目的の有無に加え、相手方側の事情を総合的に斟酌し、社会通念上是認できない程度のものといえるかによって判断すべきである。 第1 事案の概要:被上告人(権利者)が上告人(占有者)に対し、本件建物の明渡しを求めて提訴した。上告人は、当該明渡請求が権…
実務上の射程
代物弁済の予約や実行において、暴利行為(民法90条)が疑われる事案での有効性判断の枠組みとして機能する。また、権利の濫用の主張に対しては、相手方の占有の不法性を指摘することで、権利行使の正当性を基礎付けるという答案上の構成に活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)454 / 裁判年月日: 昭和37年4月17日 / 結論: 破棄差戻
一 (略)(本件原審判決は、高裁民集一〇巻二号七五頁に登載あり) 二 宗派主管者の承認なしに住職が寺院所有地を賃貸したとき、右寺院は宗派主管者に対して右賃貸借について承認を求める手続をとる義務を負うと解すべき法律上の根拠はない。
事件番号: 昭和32(オ)890 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地の明渡請求が権利の乱用に該当するか否かは、具体的な事実関係に基づき、請求によって得られる利益と相手方の被る不利益等を比較衡量して判断されるべきであり、本件においては権利の乱用にはあたらない。 第1 事案の概要:上告人(被告)らが占有する本件土地につき、被上告人(原告)が土地明渡を求めた事案であ…
事件番号: 昭和32(オ)659 / 裁判年月日: 昭和33年5月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の行使が権利の濫用に該当するか否かは、確定された事実関係に基づき、客観的・総合的な諸事情を照らして判断される。本件においては、原審の認定した事実の範囲内では権利の濫用とは認められないと判断された。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人による本訴請求が権利の濫用にあたると主張して争った。原審は…
事件番号: 昭和35(オ)53 / 裁判年月日: 昭和37年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法1条3項の権利濫用について、契約解除権の行使が権利の濫用にあたると解すべき根拠となる事実が認められない場合には、当該解除は有効である。原審が確定した事実関係の範囲内では、解除権の行使を不当とする事情がなく、権利濫用には当たらないとした判断を維持した。 第1 事案の概要:本件は契約の解除権行使の…