判旨
不在者投票用紙の交付請求において、被証明者の氏名の記載がない証明書は、他に資料がない限り、誰の不在を証明するものか不明であるため、これに基づき投票用紙等を交付することは違法である。
問題の所在(論点)
不在者投票の請求手続において、被証明者の氏名が欠落している証明書に基づき投票用紙等を交付することが、公職選挙法上の適正な手続として認められるか。
規範
不在者投票用紙及び封筒の交付手続の適否を判断するにあたり、証明書に被証明者の氏名の記載がない場合は、他に該当者を特定できる資料がない限り、証明者が何人の不在を証明した趣旨であるか不明であるため、当該証明書は有効なものとして認められない。
重要事実
不在者投票の請求に際し、提出された証明書には被証明者(請求者)の氏名が記載されていなかった。請求者本人が当該証明書を持参し、請求書自体には氏名の記載があったものの、当該証明書が持参した請求者本人に関するものであることを裏付ける他の客観的な証拠や疎明資料は存在しなかった。この状況下で投票用紙等が交付されたことの適法性が争われた。
あてはめ
本件では、証明書に被証明者の氏名が記載されておらず、証明者が誰の不在を証明しようとしたのかが客観的に明らかではない。たとえ請求者本人が持参したとしても、そのことのみをもって当該証明書が請求者を対象としたものであると直ちに断定することはできない。また、請求書への氏名記載があることを考慮しても、証明書自体に氏名がない以上、他に疎明資料がない限り、交付手続の適正を担保するに足りる証明があったとはいえない。したがって、本件交付手続は違法と評価される。
結論
被証明者の氏名記載なき証明書により投票用紙等を交付することは、特段の事情がない限り違法であり、本件請求は棄却される。
実務上の射程
選挙無効訴訟等において、不在者投票の厳格な手続遵守を求める規範として機能する。形式的不備がある書面であっても他の資料による補完の余地は残しつつも、実質的な証明・疎明がなされない限りは手続を違法とする実務指針を示すものである。
事件番号: 昭和31(オ)646 / 裁判年月日: 昭和32年5月7日 / 結論: 棄却
Dと記載された投票は、候補者Aの氏名を誤記したものとは認められない。