判旨
公職選挙法上の有効投票の判定において、投票用紙の記載の一部が判読し難い場合であっても、他の記載部分や候補者の氏名、記載の形態等を総合的に考慮し、特定の候補者を記載しようとしたものと合理的に推定できるときは、当該候補者に対する有効投票と認められる。
問題の所在(論点)
公職選挙法における自書式投票において、氏名の一部が判読困難な記載(いわゆる誤記・不完全な記載)が含まれる投票が、特定の候補者に対する有効投票として認められるか。
規範
投票の有効・無効の判定にあたっては、投票の記載事項、記載の形態、記載順序、および当該選挙における候補者の氏名等の諸事情を総合して、選挙人がいずれの候補者を記載しようとしたかを合理的に推認すべきである。
重要事実
本件選挙において、ある投票用紙の冒頭の一字は「安」と明確に記載されていたが、それに続く文字は不明瞭で判読が困難であった。しかし、当該選挙の候補者のうち、姓に「安」の字がつく者は「安原善吉(C)」一人であった。また、不明瞭な部分の記載の形態や順序を精査したところ、残りの氏名である「原」「善」「吉」を書こうとしたものと推認し得る状態であった。
あてはめ
まず、冒頭の「安」の字は明確に判読でき、本件選挙の候補者の中でこの字を姓に持つ者はCのみである。次に、続く不明瞭な記載についても、記載の形態や順序を考慮すれば、Cのフルネームである「原」「善」「吉」を記載しようとして明確に書けなかったものと合理的に推定できる。したがって、本件投票はCに対する投票の意思が客観的に現れたものと評価できる。
結論
本件投票は候補者Cに対する有効投票であると認められる。
実務上の射程
自書式投票における「記載の不分明」に関する判断枠組みを示す。一字でも明確な判読が可能であり、かつ他の候補者と混同するおそれがない状況下では、残余の判読し難い部分についても、記載の形態や候補者の氏名との符合から合理的な推認を及ぼすことで、有効投票の範囲を広く認める実務の指針となる。
事件番号: 昭和31(オ)2 / 裁判年月日: 昭和31年4月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】投票用紙に付された記号が習慣上の句点と認められる場合、公職選挙法68条5号の他事記載には当たらない。また、氏名の誤記が明白な場合は有効投票として認められる。 第1 事案の概要:村議会議員選挙において、複数の投票の有効性が争われた。具体的には、(1)文字と認識できない記載のある投票、(2)候補者名と…