同一筆跡の投票が多数存在しても、代理投票のゆるされる現在の制度では、投票のすりかえ等不正行為を推認することはできない。
投票のすりかえ等不正行為が行われたと推認できない一事例。
公職選挙法205条1項
判旨
選挙無効の訴えにおいて、同一筆跡の投票が多数存在するという事実は、投票のすり替えがあったことを直接示すものではなく、民事訴訟法上の証拠採否は裁判所の裁量に属する。
問題の所在(論点)
選挙無効の原因となる「投票のすり替え」という不正事実を推認させるための間接事実(同一筆跡の投票の存在)につき、裁判所が証拠調べ(筆跡鑑定)を行わずに事実を否定したことが適法か。
規範
公職選挙法上の選挙無効原因となる不正(投票のすり替え等)の存否について、裁判所は、提出された証拠の必要性を裁量により判断し、他の証拠関係から事実認定が困難であると判断される場合には、特定の証拠調べ(筆跡鑑定等)を却下することができる。
重要事実
上告人らは、選挙において投票のすり替えがあったと主張し、その間接事実として「同一筆跡の投票が多数存在する」ことを挙げ、筆跡鑑定の実施を求めた。しかし、原審は当該鑑定申請を却下し、かつ投票のすり替えの事実を否定したため、上告人らが証拠調べの不尽や事実誤認を理由に上告した。
あてはめ
代理投票が許容されている(公選法46条)現行制度下では、同一筆跡の投票が複数存在することはあり得る事態である。したがって、同一筆跡の投票が多数存在するという事実は、投票のすり替えを直ちに推認させるものではなく、あくまで間接事実に過ぎない。裁判所は、証拠調べの結果から不正の事実が認定できないと判断した場合、不必要と認める証拠調べを悉く実施する義務はない。
結論
同一筆跡の投票が存在することのみをもって投票すり替えを推認することはできず、鑑定申請を却下した原審の判断に違法はない。
実務上の射程
民事訴訟一般における自由心証主義と、公選法上の選挙無効訴訟における事実認定のあり方を示す。特に、多数の同一筆跡投票という一見疑わしい事実があっても、代理投票制度の存在によりその証明力が限定されることを示した点に意義がある。
事件番号: 昭和32(オ)540 / 裁判年月日: 昭和32年9月26日 / 結論: 棄却
一投票区の投票を他の投票区の投票と分離して点検した違法は選挙無効の原因にはならない。