判旨
裁判所が判断し得る「法律上の争訟」とは特定の当事者間の具体的な法律関係の紛争に限られ、客観的法秩序の維持を目的とする民衆訴訟は、法律の規定がある場合に限り認められる特例的な制度である。したがって、個別の法律において民衆訴訟が規定されていないことをもって、裁判を受ける権利を保障する憲法32条に違反すると解することはできない。
問題の所在(論点)
具体的な法律関係に基づかない民衆訴訟を法律が規定していない場合に、憲法32条違反の問題が生じるか。また、執行停止が認められないことが基本的人権の侵害にあたるか。
規範
「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)とは、特定の者の具体的な法律関係について紛争が存在する場合を指す。これに対し、当事者の具体的な法律関係に関係なく提起される民衆訴訟は、憲法の要請に基づくものではなく、法律の規定がある場合に限り特に認められるものである。また、行政処分の執行停止の要件である「償うことのできない損害」等の判断は法律解釈の問題に帰せられる。
重要事実
抗告人らは、土地収用法に基づく事業認定の取消訴訟を提起し、あわせて執行停止の申立てを行った。抗告人らは、事業認定に対する訴訟を民衆訴訟として認めないこと、および執行停止を認めないことは憲法32条(裁判を受ける権利)等に違反すると主張して最高裁判所に抗告した。なお、抗告人らのうち2名は起業地内の家屋賃借人、1名は建物所有者であった。
あてはめ
民衆訴訟は法律が特に認めた場合にのみ成立する制度であり、土地収用法が事業認定に対する民衆訴訟を規定していないとしても違憲の問題は生じない。本件では、抗告人らは建物所有者や賃借人として具体的利益を有しており、原審も本案訴訟を適法として執行停止の要否を判断しているため、民衆訴訟の可否が憲法問題に直結するわけではない。また、執行停止がなされなくとも、本案判決により違法が確認されれば救済の道は残されており、執行停止の拒否が直ちに基本的人権を侵すとはいえない。
結論
民衆訴訟の規定がないことは憲法32条に違反せず、執行停止の拒否も違憲ではない。本件抗告を棄却する。
事件番号: 昭和47(ク)311 / 裁判年月日: 昭和47年11月9日 / 結論: 棄却
民訴法五四九条四項、五四七条二項による裁判について不服申立をなしえない旨の判断をしても、憲法三二条に違反しない。
実務上の射程
司法権の限界および「法律上の争訟」の意義を論じる際の基礎判例。客観的訴訟(民衆訴訟・機関訴訟)が法律による限定的な制度であることを示す。行政事件訴訟法における執行停止(25条)の憲法判断の際にも、救済の余地の有無を考慮する点に射程が及ぶ。
事件番号: 昭和32(ク)221 / 裁判年月日: 昭和33年2月7日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所が抗告に関して裁判権を有するのは、訴訟法において特に認められた場合に限定される。憲法違反を主張していても、その実質が法令の解釈適用の誤りを争うものである場合は、適法な抗告として認められない。 第1 事案の概要:抗告人は、原決定に対して憲法違反を主張して最高裁判所に抗告を申し立てた。原決定…
事件番号: 昭和51(行ト)5 / 裁判年月日: 昭和52年3月10日 / 結論: 却下
外国人が退去強制令書によりその本国等に強制送還されても、日本において裁判を受ける権利を否定されることにはならない。
事件番号: 昭和31(ク)314 / 裁判年月日: 昭和31年12月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法は、最高裁判所が終審裁判所であることを定める81条の場合を除き、審級制度の詳細については立法府の裁量に委ねている。したがって、特定の裁判手続において不服申立てを認めない法律の規定があったとしても、直ちに違憲とはならない。 第1 事案の概要:抗告人は、高等裁判所が行った本件執行処分取消申請を却下…
事件番号: 昭和39(ク)118 / 裁判年月日: 昭和39年6月30日 / 結論: 棄却
第一審及び原審は、要するに、抗告人らの本件(仮処分執行停止命令)申立は申立の利益がないとして、却下あるいは棄却の裁判をしたものであって、裁判そのものを拒否したものではなく、憲法第三二条に違反したものとはいえないこと、当裁判所の判例(昭和二七年(オ)一一五〇号同二八年一二月二三日大法廷判決・民集七巻一三号一五六一頁)の趣…