外国人が退去強制令書によりその本国等に強制送還されても、日本において裁判を受ける権利を否定されることにはならない。
外国人に対する退去強制令書の執行と裁判を受ける権利
憲法32条,出入国管理令24条,出入国管理令52条
判旨
強制退去令書の執行により外国人が本国に送還されたとしても、訴訟代理人を通じた訴訟追行や必要に応じた再上陸の手続が可能である以上、直ちに憲法32条の裁判を受ける権利を侵害するとはいえない。
問題の所在(論点)
強制退去令書の取消訴訟において、一審判決確定前に送還部分の執行停止が終了し、外国人が強制送還されることが、憲法32条の保障する「裁判を受ける権利」(特に上訴権の行使)を侵害するか。
規範
憲法32条の裁判を受ける権利は、当事者が国外に送還されることによって直ちに失われるものではない。本人が直接出頭できず訴訟追行に困難が生じるとしても、①訴訟代理人によって訴訟を追行することが可能であり、かつ、②当事者尋問等で直接出頭が必要な場合には別途所定の手続により上陸が認められる余地があるならば、裁判を受ける権利の侵害には当たらない。
重要事実
インド国籍の外国人である抗告人は、在留期間更新を不許可とされ、強制退去令書を発付された。抗告人は令書の取消訴訟を提起し、あわせて本案判決確定までの執行停止を申し立てた。一審・二審が「一審判決言渡し時まで」の執行停止を認めたのに対し、抗告人は、一審敗訴後に直ちに執行されると上訴して裁判を受ける権利が否定されるとして、憲法32条違反を理由に特別抗告した。
事件番号: 昭和31(ク)273 / 裁判年月日: 昭和31年12月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が判断し得る「法律上の争訟」とは特定の当事者間の具体的な法律関係の紛争に限られ、客観的法秩序の維持を目的とする民衆訴訟は、法律の規定がある場合に限り認められる特例的な制度である。したがって、個別の法律において民衆訴訟が規定されていないことをもって、裁判を受ける権利を保障する憲法32条に違反す…
あてはめ
抗告人が本国に送還された場合、自ら日本国内で訴訟を追行することは困難となる。しかし、訴訟代理人を選任して訴訟を継続することは可能である。また、裁判所が当事者尋問等のために直接の出頭を必要と判断した場合には、その時点で改めて上陸許可を得る手続をとることも可能である。したがって、一審判決後の送還によって、実質的に上訴して裁判を受ける権利が根底から否定されるとまではいえない。
結論
本件令書の執行停止を一審判決言渡し時までとした原決定は、憲法32条に違反しない。
実務上の射程
行政事件訴訟法における執行停止の必要性(「重大な損害」の有無)を検討する際、送還による防御権行使の困難性が裁判を受ける権利の侵害(違憲)に直結しないことを示す根拠として用いる。ただし、現在の実務や近時の下級審裁判例では、より手厚い権利保護の観点から送還の停止期間を柔軟に判断する傾向がある点に留意が必要である。
事件番号: 昭和39(ク)172 / 裁判年月日: 昭和39年6月30日 / 結論: 棄却
口頭弁論を経ずして強制執行停止を命ずる裁判をしても憲法第八二条に違反するものではない。
事件番号: 昭和60(ク)381 / 裁判年月日: 昭和60年12月20日 / 結論: 棄却
民訴法五一二条ノ二第二項の強制執行停止決定に対し不服申立の方法を認めていない同条一項、同法五〇〇条三項は、憲法三二条に違反しない。
事件番号: 昭和39(ク)118 / 裁判年月日: 昭和39年6月30日 / 結論: 棄却
第一審及び原審は、要するに、抗告人らの本件(仮処分執行停止命令)申立は申立の利益がないとして、却下あるいは棄却の裁判をしたものであって、裁判そのものを拒否したものではなく、憲法第三二条に違反したものとはいえないこと、当裁判所の判例(昭和二七年(オ)一一五〇号同二八年一二月二三日大法廷判決・民集七巻一三号一五六一頁)の趣…
事件番号: 昭和33(ク)158 / 裁判年月日: 昭和33年8月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法32条は審級制度をいかに定めるかについて規定したものではなく、憲法81条が定める場合を除き、審級制度の設計は立法府の裁量に委ねられている。したがって、下級裁判所の決定に対する最高裁判所への抗告を制限する規定は、同条に違反しない。 第1 事案の概要:抗告人は、下級裁判所が下した決定に対して最高裁…