判旨
和解条項において、債務者が義務の履行を怠ったときは当然に契約解除の効果が生ずる旨の約定がある場合、解除の意思表示を要せず契約は当然に失効する。
問題の所在(論点)
民法540条1項は解除に意思表示を求めているが、義務不履行があれば当然に契約が失効する旨の和解条項(失権約款)がある場合に、改めて解除の意思表示をすることなく契約は失効するか。
規範
契約の解除は原則として意思表示を要する(民法540条1項)が、当事者間の合意により、一定の債務不履行がある場合に解除の意思表示を待たず当然に契約を失効させる旨の失権約款(解除権留保の特約)を設けることは、公序良俗に反しない限り有効である。この場合、約定の不履行という客観的事実の発生により、当然に解除の効果が生じる。
重要事実
賃貸人(被上告人)と賃借人(訴外D)との間で和解契約が成立した。その和解条項には、賃借人が和解で定められた義務の履行を怠ったときは、その事実だけで当然に契約解除の効果を生ずる旨の約定が含まれていた。その後、賃借人は和解契約所定の義務を履行しなかった。上告人は、被上告人による解除の意思表示の有無や、条件付解除の意思表示の有効性を争い上告した。
あてはめ
本件和解条項は、当事者の真意に基づき、不履行という事実のみで当然に契約解除の効果を生じさせる趣旨で約定されている。賃借人Dがこの義務履行を怠った以上、約定に基づき契約は当然に失効する。したがって、改めて解除の意思表示を待つまでもなく、本件賃貸借契約の効力は失われたと解される。また、予備的に行われた条件付解除の意思表示の成否は、当然失効の判断に影響を及ぼさない。
結論
義務不履行により当然に契約解除の効果を生ずる旨の約定がある場合、解除の意思表示を要せず、不履行の事実により契約は当然に失効する。
実務上の射程
契約不履行による当然失効を認める失権約款の有効性を肯定した事例である。実務上、解除の手間を省く特約として有用だが、相手方の帰責性や催告の要否が争点となる場合は、本判決の「当事者の真意」の解釈を前提に、信義則等の観点から射程が制限される可能性がある点に注意を要する。
事件番号: 昭和30(オ)830 / 裁判年月日: 昭和32年1月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約において、賃料を1か月分でも不払いにしたときは無催告で解除できる旨の特約は、信義則に反し権利の濫用と認められる特段の事情がない限り有効である。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)と被上告人(賃貸人)との間には、調停条項により「賃料を1か月分でも支払うことを怠ったときは、被上告人において催…