判旨
農地の買収処分は真実の所有者に対して行うべきであるが、登記簿上の所有者に対し確定した買収処分は、それが登記名義人に対してなされたという一事をもって当然無効とはならない。また、自作農創設特別措置法28条にいう「自作をやめようとするとき」とは、必ずしもその旨の意思表示を要するものではない。
問題の所在(論点)
1.真実の所有者と異なる登記名義人に対してなされ、かつ確定した農地買収処分の効力。2.自作農創設特別措置法28条の「自作をやめようとするとき」の意義と意思表示の要否。
規範
1.農地買収処分は真実の所有者を対象とすべきであるが、事務処理上の困難性から公簿の記載に拠ることは是認される。買収計画が適法な異議・訴願・出訴期間を経て確定した後は、登記名義人を対象としたことを理由に当然無効とはならない。2.「自作をやめようとするとき」の該否は、自作中止の届出等の意思表示の有無にかかわらず、客観的な耕作実態の変化等に基づき判断される。
重要事実
政府が自作農創設特別措置法に基づき農地を買収した際、登記簿上の所有者であるDを相手方として買収計画を定めた。真実の所有者である上告人は、当該買収計画に対して同法所定の異議や訴願を申し立てず、買収令書による処分に対しても出訴期間内に訴訟を提起しなかった。その後、上告人は登記名義人に対する処分であることを理由に無効を主張した。また、上告人は自作中止の届出をしていなかったが、実際には第三者に耕作させていた事実があった。
あてはめ
1.上告人は登記簿上の所有者Dを対象とする買収計画に対し、法所定の異議・訴願を行わず、出訴期間内に買収処分の取消訴訟も提起していない。この場合、買収処分が登記名義人に対してなされたという点のみでは、重大かつ明白な瑕疵があるとはいえず当然無効にはならない。2.上告人は自作中止の届出をしていないが、実際には農地を訴外Eに耕作させて自作をやめていた。農地委員会が調査の結果として自作中止を認定した以上、意思表示の有無にかかわらず同法28条の要件を満たす。
結論
1.確定した買収処分は当然無効とはならない。2.自作の中止は意思表示がなくとも客観的事実により認められる。したがって上告を棄却する。
事件番号: 昭和27(オ)1132 / 裁判年月日: 昭和32年9月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の買収処分において、登記簿上の名義人を所有者としてなされた処分は、異議申立や出訴期間内に行われた争訟によって是正されない限り、直ちに当然無効とはならない。 第1 事案の概要:政府が自作農創設特別措置法に基づき農地の買収処分を行った際、真実の所有者ではなく登記簿上の名義人を相手方として買収計画お…
実務上の射程
行政処分の公定力と不可争力に関する判例であり、特に登記等の公簿を信頼してなされた処分の有効性を維持する。また、行政法規の解釈において、形式的な届出等の意思表示よりも実体的な客観的事実を重視すべき場面での論拠として活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)478 / 裁判年月日: 昭和32年11月28日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】農地開放の申請に基づく農地買収処分において、真実の申請者ではない登記簿上の名義人を対象としてなされた買収計画及びそれに基づく買収令書の発行は、原則として法律上当然に無効である。 第1 事案の概要:上告人(子)は、先代D(父)の隠居に伴う家督相続により本件土地の所有権を取得したが、相続登記は未了であ…
事件番号: 昭和28(オ)608 / 裁判年月日: 昭和30年4月26日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】真実の所有者でない者を対象とした農地買収処分は、違法ではあるが当然無効とはならない。真実の所有者が処分を知り得たのに不服申立期間を徒過した場合は、もはや訴訟でその違法を主張することは許されない。 第1 事案の概要:本件農地は、贈与により真実の所有者となった被上告人が占有・管理していたが、未登記のた…
事件番号: 昭和28(オ)1266 / 裁判年月日: 昭和33年4月30日 / 結論: 棄却
農地所有権の移転後、移転登記未経由の間に登記簿上の所有名義人を所有者としてなされた農地買収処分は、当然無効と解すべきではない
事件番号: 昭和29(オ)28 / 裁判年月日: 昭和33年6月27日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】農地買収処分において、真実の所有者でない登記簿上の名義人を所有者としてなされた処分は、違法ではあるが当然無効とはならず、取消訴訟の対象となるにすぎない。 第1 事案の概要:所有者BがDに対し本件農地を売却し、Dが有効に所有権を取得した。しかし、登記簿上の名義人は依然としてBのままであった。国は、自…