判旨
行政処分の取消しが「公共の福祉に適合しない」として棄却されるためには、処分の違法性を前提としてもなお、これを取り消すことが社会に著しい不利益をもたらす特段の事情が必要である。本件では、農地買収計画が違法である以上、これを取り消すことが直ちに公共の福祉に反するものとは認められない。
問題の所在(論点)
行政事件訴訟特例法11条(現行行政事件訴訟法31条1項)にいう「公共の福祉に適合しない場合」の意義。具体的には、違法な農地買収計画を取り消すことが、公共の福祉に反し事情判決をすべき場合に該当するか。
規範
行政処分の取消訴訟において、当該処分が違法である場合であっても、これを取り消すことが「公共の福祉に適合しない」(現行の行政事件訴訟法31条1項の事情判決の要件)と認められるためには、処分の違法性によって生じる私益の侵害と、取消しによって生じる公益への影響を比較衡量し、後者が著しく大きい場合に限定されるべきである。
重要事実
本件土地(第一、第三の土地)は、終戦当時はその1割に満たない面積が無権限で耕作されているに過ぎず、残りは雑木林であったが、後に付近住民が無断で開墾したものであった。当初、この土地を対象とした農地買収計画が立てられたが、当該土地は適法な耕作地ではなかった。これに対し、買収計画を是認した訴願裁決の取り消しを求めて提訴がなされた。
あてはめ
原審が認定した事実関係によれば、本件土地の多くは無断開墾地であり、買収計画の前提となる事実に瑕疵がある。上告人は、この買収計画を取り消すことが公共の福祉に反すると主張するが、違法な行政処分を是認した裁決を取り消すことが、直ちに社会全体の利益を損なうほどの事態を招くとは認められない。特段、取消しを回避してまで維持すべき緊急かつ重大な公益上の必要性は認められない。
結論
本件買収計画の取消しが公共の福祉に適合しない場合に該当するとは認められない。したがって、違法な処分を維持すべき理由(事情判決の必要性)はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
事情判決(行訴法31条1項)の適用範囲を限定的に解する立場を示す。特に農地買収のような処分において、処分の違法性が認められる場合には、単に現況が耕作地化している等の事実のみでは「公共の福祉に適合しない」とはならず、厳格な衡量が必要であることを示唆している。
事件番号: 昭和31(オ)45 / 裁判年月日: 昭和32年7月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】無権原で開墾・耕作が行われている土地に対する買収処分について、処分の取消しにより耕作者が耕作権を失うとしても、不法占拠者による利益の喪失は直ちに公共の福祉に反するものとはいえず、事情判決(現・行政事件訴訟法31条)を適用すべき事由には当たらない。 第1 事案の概要:上告人は本件土地を無権原で開墾し…
事件番号: 昭和31(オ)504 / 裁判年月日: 昭和32年12月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁の裁決の取消しを求める訴訟において、前提となる行政処分が当然無効であるとしても、そのことは裁決の適法性を左右するものではなく、裁決の取消事由とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、農地買収計画に対して異議申立ておよび訴願を行ったが、被上告人(県知事)は訴願期間経過後の不適法なものであると…