判旨
無権原で開墾・耕作が行われている土地に対する買収処分について、処分の取消しにより耕作者が耕作権を失うとしても、不法占拠者による利益の喪失は直ちに公共の福祉に反するものとはいえず、事情判決(現・行政事件訴訟法31条)を適用すべき事由には当たらない。
問題の所在(論点)
無権原の耕作者が、買収処分の取消しによって耕作権を失うことが、行政事件訴訟法上の「取消すことが公共の福祉に適合しない」(事情判決の要件)に該当するか。
規範
行政処分の取消しが「公共の福祉」に適合しないとして請求を棄却する事情判決の適用については、取消しによって失われる利益の内容や性質を考慮すべきである。特に、不法占有等の無権原な状態を前提とする利益は、その喪失が直ちに公共の福祉に反すると評価されるものではない。
重要事実
上告人は本件土地を無権原で開墾し、耕作を続けていた。その後、自作農創設特別措置法に基づき本件土地の買収計画が樹立され、買収処分がなされた。上告人は、本件買収処分が取り消されれば多数の開墾者の努力が水泡に帰し、生活が脅かされるため、行政事件訴訟特例法11条(現・行政事件訴訟法31条1項)に基づき事情判決を行うべきである(取消請求を棄却すべきである)と主張した。
あてはめ
本件土地の開墾および耕作は当初から無権原で行われており、買収計画樹立時においても無権原耕作地であった。不法開墾者が処分の取消しにより損害を被ることはやむを得ない帰結である。たとえ限られた範囲の耕作者が耕作権を失い、生活上の脅威を受けるとしても、不法な占容に基づく利益の喪失が「直ちに公共の福祉に反する」とまでいうことはできない。
結論
不法占拠状態にある者の利益喪失は事情判決を基礎付ける事情にはならず、本件において行政特例法11条(現行法31条)を適用しなかった原審の判断は正当である。
事件番号: 昭和31(オ)235 / 裁判年月日: 昭和32年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地委員会は、遡及買収申請に資格上の瑕疵がある場合であっても、自創法6条の5に基づき職権で買収計画を定めることができるため、当該買収処分が当然無効になることはない。 第1 事案の概要:上告人とDとの間には農地の賃貸借契約が存在しており、当該契約は適法に解約されていなかった。その後、Eが当該農地につ…
実務上の射程
行政事件訴訟法31条1項(事情判決)の適用要件である「公共の福祉に適合しない」の判断において、原告側が主張する不利益が不法な状態に起因するものである場合、その不利益は原則として考慮されないことを示す。行政処分が違法であっても、救済されるべき法的利益の正当性が問われる場面で活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)138 / 裁判年月日: 昭和31年5月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分が法律上の手続規定に違反してなされた場合であっても、その瑕疵が当然に処分を無効とするものではなく、出訴期間内に取り消されない限り、公定力により有効なものとして取り扱われる。 第1 事案の概要:自作農創設特別措置法に基づき農地の買収処分が行われた際、買収令書が真の所有者である上告人ではなく、…
事件番号: 昭和32(オ)385 / 裁判年月日: 昭和33年5月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分に当然無効と言いうるほどの重大かつ明白な瑕疵が認められない限り、当該処分は有効なものとして取り扱われる。 第1 事案の概要:上告人らは、本件土地の買収処分について、開墾による水害発生の危険性や土地の形質変更制限後の植樹等を理由に、当該処分には重大な瑕疵があり当然無効であると主張して争った。…