判旨
当事者が主張していない手形抗弁について、裁判所は手形法17条ただし書や20条ただし書の適用の有無を審理判断する義務を負わない。
問題の所在(論点)
手形訴訟において、被告が具体的な手形抗弁を主張していない場合に、裁判所が職権で手形法17条ただし書や20条ただし書の適用の有無を審理判断すべき義務を負うか。
規範
民事訴訟における弁論主義の原則に基づき、裁判所は当事者が主張していない事実を裁判の基礎とすることはできず、また当事者の主張しない抗弁について審理判断する義務を負わない。これは手形法上の抗弁(同法17条ただし書の害意の抗弁や20条ただし書の期限後裏書の抗弁等)についても同様に適用される。
重要事実
上告人(振出人)は、被上告人が主張する事実のうち、本件約束手形を振り出したこと、および第一審被告Dが拒絶証書作成義務免除のうえ白地裏書譲渡した事実は認めた。しかし、その余の事実については「知らない」と答弁したのみで、具体的な手形抗弁(害意の存在や期限後裏書の事実など)については一切主張しなかった。
あてはめ
本件において、上告人は第一審から一貫して、手形振出しと裏書譲渡の事実は認める一方で、抗弁となり得る事実については知らぬと述べるにとどまっている。このように当事者が手形抗弁を何ら主張していない以上、裁判所が手形法17条ただし書(人的抗弁の切断の例外)や20条ただし書(期限後裏書の効力)といった規定の適用の有無についてまで踏み込んで審理判断を行う必要はない。したがって、原審がこれらの点について審理判断しなかったことに違法はないと解される。
結論
被告が手形抗弁を主張しない限り、裁判所が手形法17条ただし書や20条ただし書の成否を判断しなくても違法ではない。
実務上の射程
弁論主義が手形訴訟にも当然に妥当することを確認した事例である。答案上は、手形法上の抗弁(害意や期限後裏書)が問題となる場面で、その要件事実を当事者が主張しているかという文脈で言及し得る。また、裁判所の審理範囲が当事者の主張に拘束されることの裏返しとして活用できる。
事件番号: 昭和38(オ)1461 / 裁判年月日: 昭和39年7月16日 / 結論: 棄却
当事者が消滅時効を援用していない場合に、裁判所が右消滅時効を援用するか否かを確めなかつたからといつて、釈明権不行使の違法があるとはいえない。