判旨
合意による相殺(相殺契約)には、民法が規定する法定相殺の要件に関する規定は当然には適用されない。また、判決における理由の不備や齟齬は、それが判決の結果に影響を及ぼさない付随的事項に関するものである限り、判決の取り消し事由とはならない。
問題の所在(論点)
1. 合意による相殺において、民法の法定相殺に関する規定の趣旨が適用されるか(相殺契約の法的性質)。 2. 判決文の理由中に事実認定の矛盾がある場合、それが直ちに判決の取り消し事由となるか。
規範
1. 合意による相殺は契約自由の原則に基づき当事者間の合意によって成立するものであり、民法が定める法定相殺の要件(対立する債務の存在や相殺適状など)に関する規定の趣旨が当然に適用されるものではない。 2. 判決書における理由の齟齬については、その齟齬が判決の結論を左右する重要事項(争点)に関するものではなく、単なる事実経過の説示にすぎない場合には、判決に影響を及ぼすべき違法とはならない。
重要事実
被上告人が上告人に対し、貸金債権30万円の支払いを求めた事案。原審は、最後の貸付金5万円の日時を昭和23年「9月初旬頃」と認定したが、担保として提供された建物の登記済証の日付は「9月22日」であり、日時の齟齬が生じていた。また、上告人は相殺の主張をしたが、原審はこれを合意による相殺として認め、上告人はこれが民法の相殺規定に反すると主張して上告した。
あてはめ
1. 相殺について、上告人の主張は独自の解釈により、合意による相殺には適用されないはずの民法規定を準拠枠組みとするものであり、原審の適法な事実認定を妨げるものではない。 2. 貸付日時の認定の齟齬については、本件の争点は「30万円の貸金債権が成立したか否か」であり、担保書類の授受日時はその過程にすぎない。したがって、この齟齬は請求の認否を決定する事項ではなく、判決に影響を及ぼさない。
結論
1. 合意による相殺に法定相殺の規定は適用されず、原審の判断は正当である。 2. 判決に影響を及ぼさない事実認定の誤りは上告理由とならない。よって本件上告を棄却する。
実務上の射程
契約による相殺(相殺予約や相殺契約)において、民法505条以下の要件を緩和または修正する合意の有効性を肯定する際の根拠として活用できる。また、民事訴訟法上の「理由の齟齬」が判決の破棄事由となるか否かの判断基準(影響力基準)を示す素材としても機能する。
事件番号: 昭和30(オ)32 / 裁判年月日: 昭和36年6月13日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】金銭債務の不履行に伴う損害賠償額の予定があるというためには、利息の約定があることのみでは足りず、遅延損害金についても別途特約が存在するか、あるいは損害賠償額の予定と認めるべき事実を要する。 第1 事案の概要:被上告人(債権者)は、訴外Dに対し、月利率5分の約定で金30万円を貸し付け、上告人(連帯保…