判旨
代物弁済による債務消滅の効力は、当該給付が特定の債務の弁済を目的として行われた場合に限り認められる。本件では、提供された宅地が別口債務の弁済を目的とするものである以上、本件手形債務は消滅しない。
問題の所在(論点)
特定の債務(本件手形債務)の代物弁済として給付がなされたと主張されている場合に、その給付が別口債務の弁済を目的とするものであったとき、当該特定の債務の消滅が認められるか。
規範
代物弁済(民法482条)により債務が消滅するためには、債務者が債権者との合意に基づき、本来の給付に代えて他の給付をなすことを要する。複数の債務が存在する場合、特定の債務の消滅という効力が生じるためには、当該給付がその特定の債務の代物弁済として行われたことが必要であり、他の債務の弁済を目的としてなされた場合には、対象外の債務を消滅させる効力は有しない。
重要事実
上告人(債務者)は、被上告人(債権者)に対し、本件手形債務の代物弁済として宅地を提供したと主張した。一方、被上告人は、当該宅地の所有権移転登記を受けたのは本件手形債務とは別の「別口債務」の代物弁済としてであると主張して争った。原審は、当該宅地は別口債務に関するものであり、本件手形債権とは何ら関係がないものと認定した。
あてはめ
認定事実によれば、代物弁済の目的とされた宅地は、本件手形債権とは無関係であり、別口債務の弁済のために提供されたものである。代物弁済は当事者間の合意に基づき特定の債務を消滅させるものであるから、別口債務の履行としてなされた給付を、当然に本件手形債務の履行とみなすことはできない。したがって、本件手形債務が消滅したとはいえない。
結論
本件手形債務は消滅しておらず、上告人の代物弁済の主張は認められない。
実務上の射程
複数の債務がある場合の弁済充当の法理と平行的であり、代物弁済においても「どの債務の代わりか」という目的の同一性が消滅の要件となることを示す。答案上は、代物弁済による消滅を主張する側が、当該債務を目的とした給付であることを主張立証する必要があることを示唆する。
事件番号: 昭和34(オ)73 / 裁判年月日: 昭和36年5月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形が書き換えられた場合に、それが旧手形の支払に代えて交付された代物弁済にあたるか否かは、証拠に基づき事実認定されるべき問題であり、これを否定した原審の判断には違法がない。 第1 事案の概要:上告人は、2通の旧手形が1通の新手形に書き換えられた事実を主張し、この新手形の交付は旧手形債務に対する代物…