判旨
控訴審において当事者は第一審裁判所の管轄権欠如を主張できないが、第一審で「移送の申立をしない」と陳述した場合は管轄違の抗弁をも放棄したものと解される。また、管轄決定において民法484条と商法516条のいずれを適用しても結論に変わりがない限り、判決に影響を及ぼす誤りとはならない。
問題の所在(論点)
1. 第一審で移送の申立をしない旨を陳述した当事者が、後に管轄違の抗弁を主張できるか(管轄違の主張制限の範囲)。 2. 管轄原因としての義務履行地の判定において、民法と商法の適用選択が判決に影響を及ぼすか。
規範
1. 控訴審における管轄違いの主張の禁止(民訴法381条、現行305条柱書):当事者は、原則として控訴審において第一審裁判所が管轄権を有しないことを主張することができない。 2. 管轄権の合意・放棄の解釈:第一審において「移送の申立をしない」旨の陳述をした場合、その性質上、管轄違の抗弁を主張しない趣旨も含むものと解される。 3. 持参債務の原則と管轄:特定物以外の債務(金銭債務等)につき、特段の合意がない限り債権者の住所地(持参債務)が義務履行地となり、民法484条・商法516条(現行商法516条1項)のいずれによっても義務履行地の裁判所に管轄が認められる。
重要事実
上告人(被告)は、第一審において「移送の申立はしない」との陳述を行っていた。しかし、控訴審において第一審裁判所の管轄違いを理由とする抗弁を提起し、原判決がこれに理由を示さなかったことを理由不備として上告した。また、管轄権の根拠となる義務履行地の判定につき、第一審が商法516条ではなく民法484条を適用したことの是非も争点となった。その他、連帯保証契約の不成立や同時履行の抗弁等も主張されたが、これらは事実認定や主張の時機を逸したものとして扱われた。
あてはめ
1. 上告人は第一審において「移送の申立はしない」と明示的に陳述している。この陳述は、裁判所の管轄権を争わず、その裁判所で審理を受けることを受け入れる意思表示と評価でき、これに管轄違の抗弁を放棄する趣旨が含まれると解するのが相当である。したがって、民訴法の規定に基づき、控訴審以降に管轄違いを主張することは許されない。 2. 持参債務の原則によれば、民法484条を適用しても商法516条を適用しても、債権者の住所地が義務履行地となる結果に変わりはない。そのため、適用法条の選択が異なっても管轄権の有無という結論を左右しないため、上告理由とはならない。
結論
本件上告を棄却する。管轄権に関する主張は、第一審での「移送申立をしない」との陳述により封じられており、また義務履行地の解釈において実質的な誤りはない。
実務上の射程
管轄違の抗弁が私法的自治に委ねられている任意管轄の事案において、第一審での訴訟行為(移送申立の不作為の明示)により管轄権の争取が封じられることを確認した点に意義がある。実務上は、第一審での管轄権に関する言動が禁反言的に作用することを念頭に置くべきである。
事件番号: 昭和32(オ)661 / 裁判年月日: 昭和34年5月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告審において原審の事実認定を争うことは、それが原審の専権に属する証拠の取捨および事実の認定に対する非難にすぎない場合、上告理由として認められない。 第1 事案の概要:上告人が、原審が認定した事実およびその基礎となった証拠の取捨選択の不当を理由として、最高裁判所に上告を提起した事案。判決文中に具体…