判旨
名誉毀損に基づく不法行為(民法709条)に関し、関係者が集まる席上で事実無根の背任行為を放言・誹謗した場合は過失による権利侵害が成立する。また、被害者に過失がある場合にこれを斟酌して賠償額を減額するか否かは、裁判所の自由な裁量に属する。
問題の所在(論点)
1. 関係者が集まる限定的な席上での誹謗中傷が、不法行為上の名誉毀損(過失)を構成するか。 2. 損害賠償額の算定にあたり、被害者側の過失を斟酌するか否かは裁判所の裁量事項か。
規範
1. 民法709条の不法行為における名誉毀損は、刑法上の成否に関わらず、過失によって違法に他人の権利を侵害した事実があれば成立する。 2. 過失相殺(民法722条2項)の適用において、被害者の過失を斟酌して賠償額を決定するか否かは、裁判所の自由な裁量に委ねられる。
重要事実
上告人は、自身が代理人として選任していた被上告人(弁護士)に対し、関係者が集合した席上において、相手方と共謀して物件を不当に安価で売却させようとしている背任行為者であるとの事実無根の放言・誹謗を行った。上告人は、被上告人の過失を主張し慰謝料額の減額を求めた。
あてはめ
1. 関係者集合の席上での誹謗は公然と行われたものと認められ、通常人の注意を用いれば事実無根の放言は回避できたはずであるから、少なくとも過失による違法な権利侵害が認められる。 2. 慰謝料額の決定に際し、被害者側の落ち度を過失相殺として考慮するかどうかは事案の諸般の事情に照らした事実認定の問題であり、裁判所が必ずしも減額を強制されるものではない。
結論
上告人の不法行為責任を認め、賠償額算定における過失相殺の不適用も裁判所の裁量の範囲内として、上告を棄却した。
実務上の射程
不法行為における名誉毀損の成立要件(過失の認定)と、過失相殺の「任意的」性質を確認した判例である。答案上は、被害者に非がある場合でも裁判所が職権で必ず減額しなければならないわけではないという、裁判所の広範な裁量を裏付ける根拠として活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)877 / 裁判年月日: 昭和34年11月26日 / 結論: 棄却
不法行為による損害賠償額の算定につき被害者の過失を斟酌すると否とは裁判所の自由裁量に属する。