判旨
経済統制法規に違反する給付がなされた場合であっても、その後に締結された金員返還契約は、特段の事情がない限り、当該法規違反の一事をもって無効とはならない。
問題の所在(論点)
経済統制法規に違反する給付が原因となって締結された金員返還契約は、当該法規違反を理由に無効(民法90条違反)となるか。
規範
経済統制法規に違反する行為を原因として給付がなされた場合であっても、その後の合意に基づく金員返還契約は、特段の事由のない限り、当該法規違反のみを理由に公序良俗(民法90条)等に反して無効とされることはない。
重要事実
被上告人は塊炭の割当配給を受け、その処分権を有していた。被上告人は上告人とともに駅を訪れ、貨物係に対して塊炭一車分を上告人に引き渡すよう指示し、実際に引き渡しが行われた。その後、両者の間で当該給付に関連して金員を返還する旨の契約が締結されたが、上告人は、その原因となった給付が経済統制法規に違反するものであるとして、返還契約の無効を主張した。
あてはめ
本件における金員返還契約は、塊炭の引き渡しという過去の給付を原因として成立したものである。たとえ、その前提となる塊炭の譲渡行為が経済統制法規に抵触するものであったとしても、その後に独立して合意された金員返還契約それ自体を直ちに無効とする理由にはならない。本件において、当該返還契約を無効とすべき「特段の事由」は認められないため、契約は有効と解される。
結論
金員返還契約は有効であり、上告人は当該契約に基づく返還義務を免れない。
実務上の射程
強行法規違反(取締規定)を背景とする合意の効力が争われる事案で、原因行為の違法性が後続の独立した合意(清算合意等)にどこまで承継されるかを検討する際に用いる。不法原因給付(民法708条)が問題となる場面でも、返還の合意自体を有効と構成する論拠として重要である。
事件番号: 昭和31(オ)1074 / 裁判年月日: 昭和35年9月16日 / 結論: 棄却
統制法規に違反した売買契約に基く給付が、民法第七〇八条にいう不法原因によるものかどうかは、その行為の実質が当時の国民生活並びに国民感情に照らし反道徳的な醜悪な行為としてひんしゆくすべき程度の反社会性を有するかどうかによつて決するのが相当である。