統制法規に違反した売買契約に基く給付が、民法第七〇八条にいう不法原因によるものかどうかは、その行為の実質が当時の国民生活並びに国民感情に照らし反道徳的な醜悪な行為としてひんしゆくすべき程度の反社会性を有するかどうかによつて決するのが相当である。
統制法規に違反してなされた給付と不法原因給付の成否。
民法708条,臨時物資需給調整法(昭和21年法律32号)1条1項,指定配給物資配給手続規程(昭和22年内閣訓令3号)1条,農産品配給規則(昭和22年農林省75号)1条1号,農産品配給規則(昭和22年農林省75号)2条,農産品配給規則(昭和22年農林省75号)3条
判旨
統制法規に違反した売買契約に基づく給付が不法原因給付(民法708条)に該当するかは、当該違反行為が国民生活や国民感情に与える影響、すなわち反社会性の程度を考慮して決定すべきである。主食以外の藁工品の取引規制違反は、反道徳的な醜悪な行為とまでいえず、給付した物の返還請求は否定されない。
問題の所在(論点)
強行法規である統制法規に違反し無効な契約に基づいて行われた給付が、民法708条の「不法な原因」に基づくものとして、その返還請求が否定されるか。
規範
統制法規に違反した売買契約に基づく給付が、民法708条にいう不法原因給付に該当するか否かは、その行為の実質、すなわち統制違反の取引が当時の国民生活並びに国民感情にいかなる影響を与えるかを考慮して決定すべきである。具体的には、その違反行為が社会情勢において「反道徳的な醜悪な行為としてひんしゅくすべき程の反社会性」を有するか否かによって判断される。
重要事実
農産品配給規則(農林省令)という統制法規に違反し、無効とされる荷縄(藁工品)の売買取引が行われた。売主(被上告人)は買主(上告人)に対し、契約に基づいて特定の荷縄を引き渡したが、契約の無効を理由として所有権に基づく現物の返還(または損害賠償)を請求した。これに対し、買主側は当該給付が「不法原因給付」に当たるため返還請求は認められないと抗弁した。
あてはめ
本件の目的物である藁工品は、米麦のような主食品とは異なり、国民生活に不可欠な必需物資とまではいえない。したがって、その統制違反の事実が直接直ちに国民生活に重大な脅威を与えたり、国民感情に大きな悪影響を及ぼしたりするものではない。よって、本件の取引は統制当時の社会情勢に照らしても「反道徳的な醜悪な行為としてひんしゅくすべき程の反社会性」を有するとは認められず、民法708条の「不法」には該当しない。
結論
本件取引は強行法規違反により無効ではあるが、不法原因給付には当たらない。したがって、既になされた給付の返還請求は認められる。
実務上の射程
強行法規違反の契約が無効となる場合でも、直ちに不法原因給付(708条)が適用されるわけではなく、公序良俗違反(90条)の程度と同様の、強い反社会性の有無を個別具体的に検討すべきとする。また、補足意見にある通り、返還を認めないことがかえって統制法規の目的(物資の適切な移動管理)を妨げる場合には、708条の適用を否定して原状回復を認めるべきという趣旨も含まれている。
事件番号: 昭和31(オ)1071 / 裁判年月日: 昭和35年10月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法708条の「不法な原因」とは、行為の実質が当時の国民生活や感情に照らし、反道徳的で醜悪な行為として、ひんしゅくを買うほどの強い反社会性を有する場合を指す。単なる統制法規違反の取引は、直ちにこれに該当するものではない。 第1 事案の概要:上告人と相手方との間で生糸の売買取引が行われたが、当該取引…