判旨
民法708条の「不法な原因」とは、行為の実質が当時の国民生活や感情に照らし、反道徳的で醜悪な行為として、ひんしゅくを買うほどの強い反社会性を有する場合を指す。単なる統制法規違反の取引は、直ちにこれに該当するものではない。
問題の所在(論点)
行政上の取締法規(本件では生糸の配給統制法規)に違反する行為が、直ちに民法708条の「不法な原因」に該当し、給付の返還請求が否定されるか。
規範
民法708条にいう「不法な原因」にあたるか否かは、当該給付の原因となる行為の実質が、当時の国民生活および国民感情に照らし、反道徳的な醜悪な行為としてひんしゅくすべきほどの反社会性を有するか否かによって決すべきである。
重要事実
上告人と相手方との間で生糸の売買取引が行われたが、当該取引は臨時物資需給調整法および生糸配給統制規則に違反してなされたものであった。上告人は、当該取引が不法原因給付(民法708条)に該当すると主張し、その返還義務等の否定を試みた。
あてはめ
本件生糸取引は、臨時物資需給調整法等の統制法規に違反するものではある。しかし、その行為の実質を検討すると、当時の国民生活や感情に照らして「反道徳的で醜悪な行為としてひんしゅくすべきほどの反社会性」を備えているとまでは評価できない。したがって、単なる法規違反にとどまる本件取引は、不法原因にはあたらないと解される。
結論
本件取引は不法原因にあたらないため、上告人の主張する民法708条の抗弁は採用されない。上告を棄却する。
実務上の射程
不法原因給付の「不法」の意義を、単なる法律違反ではなく強度の公序良俗違反に限定する公序良俗限定説を判例として確立した点に意義がある。司法試験では、取締法規違反が私法上の効力(90条)や返還請求(708条)に及ぼす影響を論じる際、違反の程度を具体的に評価する枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)651 / 裁判年月日: 昭和37年3月8日 / 結論: 破棄差戻
石油製品配給規則第一条、第一一条、第一二条に違反し配給割当公文書と引換でなしにされた揮発油の譲渡といえども、必ずしも民法第七〇八条にいわゆる不法原因給付に当るとはいえない。