判旨
占有保持の訴え(民法198条)において、被告による占有妨害行為が既に消滅している場合には、妨害排除請求の対象となる「妨害」が存在しないため、請求は棄却される。また、占有の訴えにおいては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることはできない(民法202条1項)。
問題の所在(論点)
1. 占有保持の訴えにおいて、既に占有妨害行為が終了している場合に請求が認められるか。2. 占有の訴えにおいて、本権に関する主張を裁判の基礎とすることができるか(民法202条1項の解釈)。
規範
占有保持の訴えは、占有者がその占有を妨害されたときに、その妨害の停止及び損害の賠償を請求するものである(民法198条)。本訴において裁判所は、占有の成否及び妨害の事実に基づいて判断すべきであり、本権(所有権等)の有無に関する理由に基づいて裁判をしてはならない(民法202条1項)。したがって、請求時において既に妨害状態が解消されている場合には、妨害の停止を求める訴えはその要件を欠く。
重要事実
上告人(原告)は昭和20年10月に被上告人(被告)から本件土地の返還を受け、以来自ら耕作して占有していた。昭和24年6月、被上告人が無断で立ち入り稲の植付けを行ったため、上告人は立入禁止の仮処分命令を得た。しかし、当該仮処分の執行後である同年8月以降は、上告人自らが耕作して占有を継続しており、被上告人による占有妨害行為は止んでいた。上告人は、現になされている占有妨害の排除を求めて占有保持の訴えを提起した。
あてはめ
事実認定によれば、上告人は昭和24年8月以降、自ら耕作を行うことで占有を継続している。被上告人による稲の植付け等の妨害行為は、仮処分の執行後である右の日以降は既に消滅している。したがって、訴えの前提となる「占有の妨害」が存しない。また、上告人は本権(所有権等)に基づいた判断を求めているが、民法202条1項の趣旨に照らし、占有の訴えにおいては本権に関する理由により裁判を行うことはできないため、上告人の主張は採用し得ない。
結論
上告人の占有妨害排除請求は、妨害の事実が既に消滅しているため認められない。また、本権に基づく裁判を求める主張は民法202条1項により棄却される。
実務上の射程
占有保持の訴えにおける「妨害」の継続性の要件を確認する際、および民法202条1項(占有の訴えと本権の訴えとの関係)の原則を論じる際の根拠となる。実務上は、現存する妨害がない場合には占有保持の訴えが不適法または理由なしとされる点、および本権の有無が占有の訴えの成否に直接影響しない点に留意する。
事件番号: 昭和32(オ)1188 / 裁判年月日: 昭和35年9月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占有権(民法180条)の成否は、物に対する事実上の支配が誰に属しているかによって判断される。 第1 事案の概要:上告人らと被上告人の間で、本件土地の占有権が誰に帰属するかが争われた。原審は、証拠に基づき、本件土地に対する「事実上の支配」が上告人らにはなく、むしろ被上告人に属していると認定した。上告…
事件番号: 昭和39(オ)1020 / 裁判年月日: 昭和42年9月26日 / 結論: その他
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事件番号: 昭和24(オ)215 / 裁判年月日: 昭和27年4月8日 / 結論: 棄却
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